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□笑顔
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誰もいない屋上。授業中なのだから当然だ。
貯水タンクに寄り掛かり、栄口は珍しくサボっていた。
暖かな日差しと月に一度やってくるアレのせいでうつらうつらと夢とも現実ともつかない、そんな感じ。
しかし、扉が開く音で一気に覚醒した。
「あっれー?栄口がサボってるなんて珍しいね」
「水谷…」
水谷は人懐っこい笑顔を向けたが、栄口は不機嫌そうに眉を潜めた。
「どうしたの?気分悪い?保健室行く?」
「なんでもないよ。ありがと。」
不機嫌な顔が一変して、いつもの笑顔になる。すると水谷は、そんな栄口を真面目な顔で見つめた。
「もしかして、阿部と三橋のことで悩んでる?」
悪びれず発言された言葉に、一瞬栄口の笑顔が崩れた。
水谷が言ったそれは最近の栄口のもっぱらの悩みであり、ただでさえ苛々する時期なのが更にそれに拍車をかけた。
「栄口と阿部って中学の頃付き合ってたんでしょ?」
「それが?」
「栄口は今でも阿部のこと、好きなのかと思って」
図星だったのか、栄口は顔を真っ赤に染めて水谷を睨み付けた。水谷は少し居心地悪そうに肩を竦めた。
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