その他

□色彩
2ページ/11ページ

白―始まりの地―



『あたし、あんたが嫌い』


母は酒を飲むとよくそう言って俺を罵った。


『あの人の面影がある癖になんでこんなにあたしに似てるわけ?』


俺は父親を知らない。
母は愛人で、父親にはちゃんと家庭があったらしい。


『子供なんて産まなきゃよかった。
あんたがいるからあたしは不幸になるんだよ』


俺は、ただの一度も反抗しなかった。それは、この人が俺の狭い世界の中心だったから。


それでも、気まぐれに与えられる優しさや温もりが嬉しくてしかたなかった。

そして、ゆっくりと歪んだ愛情だけ植え付けられてきた。




『孝介。』


その日、母に引かれて連れて来られた場所。そこがどんな意味を持つ場所かなんて知らなかった。


『すぐに迎えにくるから、いい子にしていて、』
「うん。」


その時見せた母の哀しい表情が今だに忘れられない。



捨てようとした子供に愛着があったのか、
それとも自分を捨てた男に重なったのか、

最後に強く抱きしめられて、もう迎えに来ないと悟る自分がいた。




これが《椿》のプロローグ。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ