その他
□色彩
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白―始まりの地―
『あたし、あんたが嫌い』
母は酒を飲むとよくそう言って俺を罵った。
『あの人の面影がある癖になんでこんなにあたしに似てるわけ?』
俺は父親を知らない。
母は愛人で、父親にはちゃんと家庭があったらしい。
『子供なんて産まなきゃよかった。
あんたがいるからあたしは不幸になるんだよ』
俺は、ただの一度も反抗しなかった。それは、この人が俺の狭い世界の中心だったから。
それでも、気まぐれに与えられる優しさや温もりが嬉しくてしかたなかった。
そして、ゆっくりと歪んだ愛情だけ植え付けられてきた。
『孝介。』
その日、母に引かれて連れて来られた場所。そこがどんな意味を持つ場所かなんて知らなかった。
『すぐに迎えにくるから、いい子にしていて、』
「うん。」
その時見せた母の哀しい表情が今だに忘れられない。
捨てようとした子供に愛着があったのか、
それとも自分を捨てた男に重なったのか、
最後に強く抱きしめられて、もう迎えに来ないと悟る自分がいた。
これが《椿》のプロローグ。
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