Tales of miracle

□第八章 光の国
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 ジールがドアを開けると、そこには1人の男が困ったような笑みを浮かべて立っていた。緑色のシャツと茶色のズボンは薄汚れており、微かな血色のシミが滲んでいる。頭に巻いた迷彩柄のバンダナからは、無造作に薄い色の茶髪がはみ出していた。
 男はジールを見て、頭を下げた。
「いきなりすみませんっす。土地勘が無いもので、迷ってしまった上に獣に襲われて…」
「わあ、大変。どうぞ入って」
「お邪魔します」
 ジールが招き入れると、男は扉をくぐって中に入った。アリシアが台所へ行き、リオとクルトはじっと男を見つめている。ジールは今まで自分が座っていた椅子を指して、口を開いた。
「そこ、座っていいよ。今アリシアがお茶の用意してくれてるから」
「あ、いえ、そんな、すぐに出るのでどうぞお構いなく…」
「右足」
「え?」
 恐縮した男の言葉を遮って、クルトがはっきり言った。男は反射的に右足を退くが、クルトはニヤリと笑った。
「引きずってるけど、オオカミに噛まれた?止血してあるみたいだけど、消毒しないとバイ菌が入って化膿するかもよ。最悪、右足切断だね♪」
「切断…!?」
 クルトの言葉に、男は息をのんで右足を見た。するとリオが立ち上がり、エアーボールから薬を取り出しながら男に近づいた。
「気にしなくていい。すぐに治療すれば何の問題もない」
「あ、そんないいっすよ。悪いっすから…」
「座れ」
「…はい」
 若干強制力を持ったリオの声に、男は素直に従った。椅子に座り、ズボンの裾を捲る。
「うわ〜お、想像以上だね。色んな意味で」
 クルトが男の右足を見て、驚いたような声をあげた。ジールも表情を曇らせ、リオの眉がぎゅっと寄る。
 男の右足には膝下から踝の辺りにかけて、赤黒い布が巻かれていた。明らかに血が染み付いて乾き始めている状態だ。
「この布は何だ?」
「古いシャツを破って使ったっす…」
「不潔だろうが」
 巻かれたシャツをほどきながら、リオが不機嫌に言った。男はすまなそうに萎縮している。
「はい、お茶よ」
「あ、どうもすみいいいぃぃっ!」
 アリシアがテーブルに茶を置くのと同時に、男が飛び上がった。が、すかさずクルトが男を椅子に押さえつける。
「はいはーい、しみても我慢!痛いの痛いの飛んでくよ♪」
「は…はいっす…!」
 クルトの言葉で、男は目を固く閉じて耐え始めた。
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