Tales of miracle

□第八章 光の国
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 リオは消毒液を湿らせた布で傷口を撫でながら、淡々とした口調で男に尋ねた。
「お前、名前は?」
「エ、エスカデっす…」
「アスタルテか?」
 リオがそう訊いた途端に、ジールとアリシア、クルトがエスカデの顔を覗き込んだ。しかしエスカデはリオに向かって、強い口調で答えた。
「アスタルテなんかじゃないっす!自分は誇り高き聖十字軍の遊撃第一部隊の隊員っす!」
「聖十字軍?」
 ジールが首を傾げて尋ねる。クルトとアリシアは目配せをして、それぞれ肩をすくめた。
「聖教大国エメロードが誇る、光の軍隊っす!国の平和と秩序を守るために戦っているんすよ!」
 エスカデが力強い口調で言った。するとジールは期待に満ちた笑顔を浮かべ、興奮気味に話しだした。
「光の軍隊…正義の味方だね!かっこいいな〜!」
「そうっす!しかもすごく強いんすよ!」
「でも方向感覚を養う訓練はしてないんだね♪」
「うっ…」
 満面の笑みを浮かべたクルトの言葉に、ご機嫌だったエスカデは声を詰まらせた。続いて、アリシアがエスカデに尋ねる。
「その聖十字軍の方が、どうしてこんな森の中にいるの?エメロードがあるのはネム大陸じゃないでしょう?」
「それは…物資の調達っす。ネム大陸は物価が安いから、戦争中は遠くても買いに来るんす」
 エスカデが重い口調で答えた。そこへジールがさらに質問を続ける。
「戦争してるの?どうして?」
「数ヶ月前に突然、攻めて来たんすよ。悪魔の大群が…」
「なんだと?」
 リオが顔を上げて言った。さらにアリシアが眉を寄せながら口を開く。
「悪魔が戦争規模の群れで襲ってくるなんて、初めて聞いたわ」
「それが…自分たちをアスタルテと名乗る人間がいて、そいつらが悪魔を統率しているみたいなんすよ。何故かは分からないけど、悪魔も奴らの言うことを聞くし…」
「なるほど…」
 リオが神妙な面持ちで頷いた。そして消毒を終えて立ち上がり、アリシアに向かって言った。
「消毒は済んだ。アリシア、頼む」
「ええ。ヒール」
 アリシアはエスカデの脚に手をかざし、魔法を唱えた。傷口がみるみる内に塞がり、やがて跡形もなくなる。
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