Tales of miracle

□第一章 動き出した運命
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「はっ!」
 ジールの剣が真一文字に獲物の腹を切り裂いた。致命傷を負った狼は鳴き声をあげながらくずれおちる。
 そこへ別の狼がジール目掛けてとびかかってきた。しかし、すんでの所で一本の矢が狼の首を貫き、一撃で仕留めた。
「危ねぇぞジール。油断すんなよ」
「うん、ありがと、ラキ」
 ジールは剣を鞘におさめつつ、自分の方へ歩いてくるラキに向かって礼を言った。
 2人は森に入って1時間もしない内に狼の群れに出くわし、襲われてしまっていた。狼は全滅させたが、2人の体には傷がいくつかできている。
「いてて、やっぱり群れで来られるとキツイよね」
「ジール、傷薬あっただろ?あれ塗ろうぜ」
「そうだね。えっと、確かこの中に…あ、あった」
 ジールは自分のリュックから底の浅い青色のビンを取り出した。蓋を開けると中には白いクリーム状の固体が入っている。
 ジールはビンの中に指を入れ、傷薬を少し掬って特に大きな傷口に塗った。すると塗った所からどんどん傷が塞がり、やがて傷口は跡形もなく消えていった。
「うわ、やっぱりこの薬は凄いや。どんどん治ってくよ」
 ジールは再び傷薬を指で掬い、ラキにビンを手渡した。ラキは受けとるとジールと同じように傷薬を塗る。
「ほんと、傷口がみるみる内に消えていくな。便利なもんだ、ってん?おい、ジール。もうなくなっちまったぞ」
 ラキがもう一度傷薬を塗ろうとビンに指を入れたが、ビンの中はもう空っぽになっていた。
「え?あ、ほんとだ。どうするの?」
「明日町に行って買ってこようぜ。最近行ってなかったから、他にも色々不足してんだ」
「じゃあ今日はもう帰るの?狼の肉しか捕ってないのに」
「文句言うな。傷薬がないんだからこれ以上は危険だろ」
 ラキの言葉に少しむくれたジールだったが、確かに危険だと思い直して素直に従った。
「じゃあ狼だけでも持って帰んなくちゃ。今切り分けるね」
「ああ、頼むぞ」
 ジールは剣を抜き、狼の死体に近付いていらない部分を削ぎおとし、ラキの背負っているかごに入れていった。かなりグロテスクな絵だが、さすがにジールはもう慣れていて、手際よく作業を進めている。
「ラキ、これでいい?」
「ああ、もういいぞ。それじゃ、出発するか」
「うん」
 4、5頭分の肉塊を詰め、ジールは剣を鞘にしまいながら返事をした。
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