Tales of miracle

□第九章 天の恵み
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 夜の静寂に包まれた光の国エメロード。いつもは賑わう街も、今夜は闇色に染まっている。人々は悪魔に怯え、また勝利を祈りながら城に避難していた。
 その街の中心部、大きな広場で向き合う8つの影があった。各隊長と副隊長が、夜闇の中で話し合っていた。
「ついにこの時が来たな」
 白銀の鎧を纏ったルードが、全員に向かって言った。
「各隊、準備はできたか?」
 鋭い視線で目配せするルード。するとテンガロンハットをかぶった金髪の男が、背負った大きな弓の弦を弾きながら応えた。
「出来ているよ。ね、エイナ?」
「セイバ隊長率いる射撃部隊は各塔ならびに要所に配置完了。押し入る敵を迎撃します!」
 エイナがはきはきとした声で言い、セイバ満足そうに微笑んだ。ルードも頷いて了解の意を示すと、続いてフレアが一歩前に出て口を開く。
「遊撃部隊は城門前に待機している。結界の消滅と同時に敵を迎撃、殲滅する」
「偵察隊の情報では今の段階で結界の外に悪魔が約千匹、さらに増加すると考えられます」
 さらにエスカデが続いて報告をする。それを聞いて、ルードは顔をしかめた。
「やはりおびただしい数がいるか。魔法部隊、大丈夫か?」
「問題ありません。数千匹程度ならば、一掃する手筈は整えてあります」
 ノーマが応える。するとその隣にいた老婆が、しわくちゃの顔に穏やかな笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。
「ほっほっほ、ついにこの時が来たのじゃな。あやつらにはほとほと手をやかされたものだね。で、これから何をするのかえ?」
「…………」
 一同、唖然とする。ノーマが慌てて老婆に耳打ちした。
「ウ、ウメ様、先程申し上げたではありませんか!結界が破られ、敵が攻めてくるので迎え撃つと!」
「おお、おお、そうじゃった。ついにゴキブリを一掃するのだったね」
「ゴ、ゴキブリ!?違います、悪魔ですよ!」
 そこまでノーマが説明すると、ウメはほっほっほと朗らかに笑った。
「分かっておるよ。そろそろ引退しようと思っていた矢先に、こんな大きな戦争だものねえ。ケヴィン坊やがまだ乳のみ子だった時から魔法部隊にいるけど、悪魔と戦争なんて初めてだよ」
「…いつも思うんだけど、ウメ隊長って何歳なんだ〜?」
 デモルトが冗談交じりに尋ねると、ウメは笑顔のまま耳に手を当てた。
「最近耳が遠くてねえ。悪いけどエスカデちゃん、もう1回言っておくれ」
「…やっぱりいい。それと俺の名前はデモルトだぜ〜」
 苦笑しながらデモルトが言うと、ウメはにっこりと笑った。
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