Tales of miracle

□第七章 語られる真実
2ページ/29ページ


「あれは…おれと同じ…」
 ジールはその試験管に入った者たちを見て、誰にも聞こえないように呟いた。微かに眉を寄せ、異形の者たちを複雑な表情で見つめる。
「ジール、ここはなんだい?知っているなら答えてくれ」
 アーネストが後ろからジールに言った。ジールは振り返り、アーネストの方を向いて答える。
「ここは…あの人の研究室。そしておれが生まれた場所だよ」
「ん?あの人?生まれた?それは誰で、どういう意味だい?」
「僕が教えてあげるよ」
 アーネストの質問に答えたのは、部屋の奥から現れた男だった。ジール以外の6人はとっさに身構えるが、ジールは自然体で男の方を振り向く。
「……ただいま、エルヴィス」
「おかえり、ジール。大きくなったね」
 エルヴィスと呼ばれた男は、穏やかに笑って言った。警戒する6人を気にもかけず、無防備のままジールに近づいて行く。
 エルヴィスは白衣を着た細身の男で、乱れた灰色の髪を肩の辺りまで伸ばし、深い紫色の目に眼鏡をかけていた。若い青年のような姿をしているが、どこか近寄り難い偉人のようなオーラを纏っている。
 エルヴィスはジールから視線を逸らし、後ろの6人に声をかけた。
「こんにちは、客人たち。僕はエルヴィス、よろしく」
「待て、それ以上近寄るな。お前が何者かまだ分からない」
 リオが鋭く言うと、エルヴィスはピタリと足を止めた。そしておどけたように肩をすくめてみせる。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか、リオ。僕はしがない軟弱な天才科学者だよ」
「何故私の名前を知っている?」
「軽くボケたのにつっこみは無しかい?ラキ、君はツッコミ役だろう?しっかりしてくれよ」
「俺、あんたに名乗ってないぞ」
 エルヴィスは飄々と振る舞うも、リオとラキはより警戒を強めた。しかしエルヴィスは全く動じない。
「そう警戒しなくていいよ。君たちに危害を加えるつもりは無いから」
「答えになっていない。何故名前を知っている?」
「名前だけじゃないよ。アリシアが封印術士だということも、ミューラが殺し屋の娘ということも、リオとリエンがハーフということも、アーネストが情報部と科学部部長だということも、ラキがジールと5年間過ごしていたことも、みんな知っている」
「だから何故知っているのかと訊いているんだ!」
 明らかな敵意を込めて、アーネストはエルヴィスを睨みつけた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ