拍手掲載小説倉庫

□想ひの水面に沈みませう。[沖新]
1ページ/1ページ

 



前触れもなく、沖田が突然新八の前に現れるのはいつもと変わらない事なのだけれど。
その日の沖田はどこか元気が無い様に感じられた。

拭いきれない違和感に息苦しくなる。


それでも、沖田が何も言わないので新八は何も聞かない。


死んだ魚の様な目をしていると専らの噂である新八の上司よりも、更に救いようのない目をしていた。



新八が静かに沖田を見ていると、どこか焦点の合わない沖田がふいに口を開いた。


「新八ィ、俺はオメーに惚れて初めて己の嫉妬深さに気付きやした。まさか自分の中に、てめぇの手に負えねェぐらい貪欲で激しい感情があるなんて知りやせんでした。」

「僕もです。」



「俺は自分でも厭きれる程に我が儘なガキなんでね。どこぞの誰かさんみたいに、好いた女の幸せの為に身を引くなんてオトナな対応は出来そうにねーんでさ。」


沖田は手を伸ばして新八の頬に触れた。
指先が異様に冷えていて、しかも小刻みに震えている事に気付いた。

驚いた新八は思わずその手に自分の手を重ねる。


「お互いの幸せを願い、想い合っているのに別れて、それで相手も自分も不幸になるなんて真っ平ごめんでィ。
俺ァ自分の背負った業ごと好いた相手を抱き込んで、最期の最後まで添い遂げてみせやすぜ。」

「…沖田さんらしいですね。」




だから…。




「俺がもし夢なかばで倒れる時は、オメーも一緒に連れてってやりまさァ。」



「………迷惑かィ?」

「そこまでアンタに想われているなんて恋人冥利につきまさぁ、です。」


今にも泣きそうな、どこか痛みを堪えている様な沖田の顔。
きっと何があったんだろうと察したけれど、あえて聞かずに沖田の身体を抱き締めた。


少し震えている沖田の身体を宥める様に、優しく何度も何度も背を摩った。
そして、


「置いてかないで下さいよ?」


ゆっくりと、ひと言ひと言に心を込めて新八は言葉を紡いだ。
想いが伝わる様に。


沖田が縋る様に強く強く抱き返してきた。
身体の震えは、少し治まっていた。


「俺に骨を埋める覚悟はありやすかィ?」

「元よりその覚悟です。」




「共に沈んで、くれやすかィ?」

「アンタと一緒ならどんな世界でも、」






二人なら、何処へでも。





「悦んで。」










*end*

2007.03.24.*なおみユウ*

**********

2007/03/24〜2007/05/26まで拍手に設置
しっとりとした雰囲気のお話をめざし。
(↑ちょっと長く置き過ぎました…反省)

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ