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□天高く想ひ馳せませう。[沖新]
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仰げば、いつも其処に在るのに。
手を伸ばすと、遠くて届かない。


あの日、病室のベッドの上で、姉の時間が永遠に止まってしまってから。


(なんだか、見上げる空が遠くなってしまったような気がしやす。)


沖田は、志村邸の縁側の廊下に、昼寝でもするようにゴロンと寝転がりながら、ぼんやりと空を眺めていた。

雲ひとつ無い、抜けるような青い空。
時折、宇宙船が横切っていく。

頭の後ろで組んでいた両手のうち片方を外して、空に向かって手を伸べた。

何かを掴まえようしているかのように、必死に手を伸べる。
けれど、その手は虚空を掴むばかりで、掌には何も残らない。


(やっぱり、遠いや…。)


ふいに目頭が熱くなって、沖田は硬く目を瞑った。
空に伸ばした手は下ろせないままで―。


きゅっ


突然、上げたままの手が温かいものに包まれた。驚いて、思わず目を見開き、沖田はさらに目を丸くさせた。


「し、んぱち…?」


いつの間にここに居たのか、沖田の傍らに腰を下ろした新八が、沖田の手をそっと握っていた。


新八の、温かな手―。それはまるで、懐かしいあの人のぬくもりと重なって…。


息が、止まるかと、思った。


「沖田さん、そろそろ起きて仕事に戻らないと。」


近藤さんが泣いちゃいますよ?と、新八が笑う。


最愛の姉を喪ったあの日、心が折れそうになったあの時、新八は何も聞かずに自分を受け入れて、抱き締めてくれた。


(共に沈んでくれる、と…。どんな世界でも添い遂げてくれると、言って、くれた。)

(誰にも渡したくない、ひと。)


情けねェ…。いつまでもメソメソしてばかりじゃ、新八に心配かけちまう上に、姉上に合わせる顔がねーや。


溢れそうになっていた涙をぐっと堪えると、今度は鼻から垂れてきたので、ずずっと洟を啜ると、「ちょっ、アンタは子供か!?洟啜ったら駄目っスよ!ティッシュ取ってきますから待ってて下さい!!」と新八は慌てて立ち上がり、ティッシュを探すべく沖田の傍から離れた。


一人、廊下に残された沖田は、再び空へと目を向けた。


先程と些とも変わらない、
どこまでも広がる青い空。


(姉上、)


姉上、俺の声が聞こえていますかィ?


俺ァ、今日もこの街で、何物にも譲れねェ大切なモノを守りながら、心が折れたり曲がったりしないように、どんと踏ん張って生きてまさァ。
いつか俺がそっちに逝く時は、「しょーがない子ね、そーちゃんは」って笑いながら、また俺の頭を撫でてくれますかィ?


「姉上…。」


見上げた空が、少しだけ近付いたような気がした。










*end*

2007.09.17.*なおみユウ*
 
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2007/09/17〜2007/10/04まで拍手に設置
拍手文A『想ひの水面に沈みませう。』のお話と微妙に繋がってます。

 

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