CP小説
□いっそのこと、噛み付くくらいに
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向けられた背中に足が動いて、気が付くと翻った赤いコートをしっかりつかんでいた。
「坊や?」
少し驚いたように、おっさんは重たいブーツを一度鳴らし振り返った。慌てて目を背けたが、先にコートを放すべきだった。
今更ながらにそろりと指の力を緩めると、隙間から赤い生地が滑り落ちていく。
「また、どっか行くのかよ」
「そりゃあな。ん、寂しいか?」
「んな訳ねえだろ!」
からかうような口調に思わず声を荒げるが、これじゃあ肯定したも同然だ。にやりとされ、悔しくて俯く。
「っ俺が、アンタのこと、すき、なの…知ってんだろ」
途切れ途切れに言う。恥ずかしくて死にそうだ。
ちらりとおっさんの方を伺うと、困ったように頬を掻いていた。
「その、なんだ。すぐ戻って来るし」
「うそだ」
「あのなあ、坊や」
子供染みてるのは、自分でもわかる。でも、おっさんが、ダンテがいなくなるのは嫌だ。例え少しの間でも。
「俺のこと好きってんなら、信用しろよ」
「キスさせてくれたら、信用してやってもいい」
「別に構わないぜ?」
ぱっと顔を上げる。
「え、いいのか」
「何度も訊くなよ」
目の前にある端正な面立ちに、ごくりと喉が鳴る。承諾は嬉しいが、おっさん、無防備すぎじゃないか。
というか、キス。キスするのか。俺が?
「…っ」
胸ぐらを掴んで唇を寄せる。
「おいおい、せめて肩にしろ。苦しいだろ」
ぽんぽんと軽く手を叩かれ、シャツから手を放し両手を肩におく。
俺はもう切羽詰まってるのに、ダンテは余裕気に笑っている。たかだかキスするくらいなのに、どうして俺はこんなに緊張しているのだろう。
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