レッド成り代わり夢

□それぞれの道〜ヒロインside〜
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 勝ったの……?
 信じられず、握りしめた手が震える。私の目の前で傷つきながらも倒れることなくフィールド上に立っている私のポケモン。その子が二人の勝敗を証明してくれている。
 俄かには信じられないけれど、私はチャンピオンのグリーンに勝つことができたらしい。本当にどちらが勝っても可笑しくない僅差の勝負だった。


 いつも彼は私の前を歩いており、私はその背中を追うばかりだった。最初に旅に出た日から、今日この日までずっと。
 初めてジム戦に挑み、初めてジムバッジを手にした時、彼は既に次の街へと向かっていた。全てのバッジを集めてポケモンリーグに挑んだ時、彼はもうチャンピオンになっていた。そして、四天王を全員倒した時、彼は私の方を向いて立ちはだかった。

 そんな風にずっと私の前を歩いていたグリーンに、今日やっと追い付き、そして追い越した。

 一緒に旅がしたいなんて自分からは言えなかったけれど、偶に会えるだけでも嬉しかった。グリーンが私のことを幼馴染のライバルとして認めてくれていることが嬉しかったの。これで私のこと、もっと認めてくれる?

「最強のポケモンに育てて最高のコンディションで戦ったっていうのに……! 一体俺に何が足りないって言うんだ……!?」
「グリーン……」

 強くなったな。次は負けないからな。
 そんなありきたりな言葉で良いから声を掛けて欲しかったけれど、グリーンはただただ私との勝負の結果を悔んでいるようだった。確かに私はグリーンから見れば頼りない幼馴染なのかもしれない。でも、いつまでも後ろを歩いているだけでは嫌なの。私はグリーンの隣を歩きたい。

「グリーン、またいつか、私と戦ってね……」

 それまでにもっと強くなるから。今度こそあなたに認めてもらうために、もっと腕をあげておくから。

 セキエイ高原から去っていくグリーンに向かって小さく言うと、私の言葉が聞こえたのか一瞬グリーンは足を止めた。でも、結局私の方を振り向くことはなく、歩いて行ってしまった。

 嫌われてしまったのだろうか。そう考えると胸が締め付けられるような思いがした。狭いマサラタウンで唯一の友達だったグリーン。私にはグリーンしかいなかった。今となっては他に友達がいない訳ではないけれど、それでも私の中でグリーンが特別なのは変わらない。

 失いたくない。どうしたら良いの。

「グリーン君はまだ気持ちの整理ができないんだろう」
「ワタルさん……」

 元チャンピオンのワタルさんに声を掛けられ、きっと時間が経てば仲直りできると励ましてもらった。それでもまだ落ち込んでいたらしい私の話を根気よく聞いてくれたワタルさんは、一人っ子の私にとってはまるで頼りになる兄のような存在だった。

「大丈夫。君達は小さい頃からの幼馴染なんだろう? そんな簡単に絆が壊れたりはしないさ」

 少しだけ気が楽になった私は、とにかくチャンピオンとしての仕事を教えてもらうことにした。

 今はただ、ポケモン達と一緒に強くなりたい。

 それからポケモン達の特訓をして、仕事も覚えた。既にチャンピオンになってから半年が経過している。しかし、私の下に挑戦者は現れない。ジムバッジを8つ集めるのは大変なことだから、リーグ挑戦者自体が少ないらしい。そしてジムを制覇した人も、四天王の前に敗れ去ることが多いという。現にセキエイには私の後に5人の挑戦者が来たけれど、全員四天王戦で敗退している。

 現状に満足していない訳ではないけれど、最近はこのままここに居ていいのかと疑問に思う。私にはワタルさんやグリーンのようなカリスマ性はないし、チャンピオンとして挑戦者と戦ったとして、その人の実力を伸ばすような戦い方やアドバイスをする自信がない。

 だからこそ、自分を鍛えるために私は決意した。身勝手なことは分かっている。きっとポケモンリーグの皆さんにも迷惑をかけてしまう。でも、初めて自分の意思で決めたことだから、もう迷いはない。

「本当に良いのかい? 俺としては君がチャンピオンの座を降りるのは残念でならないんだが」

 本当に残念そうに言ってくれるワタルさんに胸が痛んだ。けれど、こんな気持ちでチャンピオンを続けるなんて、挑戦者の方にも四天王の皆さんにも、それからグリーンにだって申し訳ない。

「すみません……。でも、もう決めたことなので」
「まあ、リーファちゃんが決めたことなら俺はこれ以上何も言わないさ。だけど、たまには会いに来てくれよ? 君とはまたバトルもしたいしな」

 優しく微笑んでそう言ってくれるワタルさん。この半年間、この人はいつだって私を助けてくれた。本当に感謝してもしきれないというのに、最後まで迷惑を掛けてしまった。

「はい、ありがとうございますワタルさん。申し訳ありませんが、リーグのことはよろしくお願いします」

 私はマサラタウンを旅立ったあの日のような気持ちで、再び他の地方を旅することに決めた。ポケモンだけでなく、自分の心をもっと強くするために。

 何も言わないでチャンピオンを辞めたことを知ったらグリーンは怒るだろうか。それとも私のことなんてもう興味がないのかな。

「行きましょうか、ピカチュウ」
「ピッカ!」

 次に会った時、またグリーンと戦いたい。それまでに、もっともっと強くなるから。だから待っていて、グリーン。

 

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