刻まれた証

□02.帰郷
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お前の居ない日本には、俺の存在理由はただ一つ

憎しみが生んだ悲劇の幕を下ろし、鎖を断ち切る剣になる


2.帰国


『確か彼女が通っていたのは、日本の氷帝学園という所だったな』

 以前悠輝は、最近大佐が真面目に働き出した、と彼の部下に嬉しそうに言われたことがあった。それが彼ら兄妹の為に色々探ってくれていたからであったのだと、悠輝は今頃になって気付いた。

(部下達を変に期待させてしまったのは後ろめたいが、この埋め合わせは帰ってからすればいいか……)

 そんなことを考えながら、目的地である学校の最寄り駅へと辿り着いた。地図上では、あとは少し歩けば着くはずだ。

『この女も一年前からその氷帝学園に通っているらしい。だが……これ以上は何も出て来なかった。相手も馬鹿ではないようだ』

 それだけの情報で十分だった。この情報を与えてくれたマスタング大佐に悠輝は本当に感謝をしている。自分の仕事が忙しいはずなのに、その合間に何も分からない状況からこれだけのことを調べ上げてくれたのだ。

 更に加えて言えば、大総統の対応も悠輝からすれば予想外であった。中央から届いた、中将である悠輝の日本行きを承諾すると言う伝達。何かしらの思惑があるのは言わずもがなだが、思いの外あっさり認められて拍子抜けした。何はともあれ、多くの人間の協力を得て、彼は無事東京の氷帝学園へ乗り込むことができた。



「私立とは言え、中学にしては広過ぎないか?」

 正門の前に立つ悠輝は、地毛とは掛け離れた黒色のウィッグを被り、日本人から見たら異端に思われるであろう紅い瞳を黒いカラーコンタクトレンズによって隠した上で、レンズが厚めの眼鏡を掛けている。髪を染めずにわざわざウィッグを使用したのは、何故か周りの強い反対にあったからだ。

 色彩は日本人離れしているが顔立ちは純粋な日本人とそう変わらないため、学生服を身に纏って学生鞄を肩にかければ、十分ネイティブジャパニーズの学生と名乗れる姿だ。ただし、中学生にしては背が高いのと、顔立ちが大人びすぎているのがやや気になるところではある。

 悠輝が自分自身でも胡散臭いと感じているこの変装は別に趣味でも何でもない。ひとえに氷帝学園へ潜入するための苦肉の策だ。見た目を誤魔化しているとは言え、そろそろ19歳になる男が中学校に編入するのは流石に無理があるように思える。それでも自ら乗り込むことにしたのは、己より年上しかいない部下にそれをさせるのはもっと無理がある、と言う彼の苦渋の選択の結果だ。

 偽名も使用する予定だが、名前はそのままで名字だけを変えて手続きを済ませてある。悠輝本人はこの変装が見破られたとしても、それはそれで構わないと思っているからだ。いずれは正体を明かすつもりでいる彼にとっては、それが多少早くなろうがあまり関係なかった。

「それにしても、職員室はどこにあるんだ……」

 学園内に入った悠輝は慣れない眼鏡と視界を邪魔する前髪に違和感を覚えながら、きょろきょろと周りを見渡しながら廊下を歩いていた。
 中央司令部並に金を使っているのではないかと思える程の立派な校舎。流石は名門と言われる私立氷帝学園である。しかし、始業時間の迫る今、悠輝はこの広い校舎を恨んだ。一先ず奥に向かって歩いてはいるが、この先に職員室があるとは限らない。

「……初日から遅刻か?」

 目立たず潜入したいのに、と悠輝は静かに溜息を吐きながら周囲に意識を向けてみた。生徒が教室に戻り人気の少ない廊下には既に自分しか居ないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。当然と言えば当然だが、敵意を全く感じないその相手を振り返ってみれば、綺麗な長髪を揺らしながら不思議そうな顔をしている一人の男子生徒がそこに立っていた。

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