刻まれた証

□07.忠告
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最初で最後の忠告だ

俺にもあの女にも一切関わるな

それがお前の身の為だ

それでも関わろうとするのならば、命の保証はないと思え


7.忠告


 朝以来続く俺に向けられた刺さるような視線。鬱陶しいと言う以外に形容する言葉が見つからない。昨日までの無視という名のイジメの方がどんなに楽だったか。

 しかし、嬉しくもないことだがこの視線には慣れている。国家錬金術師になったその日から、街を歩けば軍の狗だと罵られ、軍部内では上層部にガキの癖にといびられた。そんな生活の中に居たからか、この突き刺さるような視線には何も感じない。皮肉なことにいつの間にか耐性ができていたらしい。

「マジでキモイよな! あの眼鏡とか一体どこで売ってんだよー!」
「何で転校してきたんだ、アイツ?」
「前の学校でもイジメられてたから転校して来たんじゃね?」

 休み時間中も黙って席に着いていたら、躊躇いもなく大声で言う俺の悪口が聞こえてくる。わざとらしく俺の席までやってきて机や椅子を蹴っていく生徒もいた。

 子供の怖いところは、理性が未熟だから手加減を知らないことだ。成長しつつある身体を力一杯使って身体的にも精神的にも本気で攻撃してくるからたまったものではない。

「おいメガネ、ちょっと来いよ」

 案の定ニヤニヤと不良らしき数人の生徒に呼び出された。せっかくの昼休みがなくなってしまいそうだ。授業中は俺にとって安息の時だった。授業間の短い休憩時間ならともかく、昼休みは苦痛の時間でしかない。校舎裏に連れて行かれたかと思うと殴る蹴るの暴行を受けた。身体中に痣や擦り傷ができたが、大人に比べれば力が弱いのは救いだった。

 そして何より、左腕の機械鎧の存在に気付かれないようするのが思ったよりも難しい。少しでも触られるとその違和感に気付かれてしまうため、左手に触れられることはなんとしても避けなければいけないからだ。

「やり返さねぇのかよ! 弱ぇ奴!」

馬鹿みたいに笑う男子生徒達に苛立ちが募る。自分から望んでこの状況にしているのだからこの生徒達が全面的に悪いわけではないが、殴られて素直に相手を許せるほど俺はお人好しでもなかった。やり返せば簡単に状況を逆転できるだろうに、それができないのがもどかしい。

「そろそろ飽きたし行こうぜ」

 満足したのか、あっさりと帰って行く少年達。飽きたと言いつつまた帰りには呼び出されるのだろう。そろそろ凶器でも持ってくるかもしれない。ふと時計を見れば授業開始十分前だ。飯を食う気も失せてしまった。このまま五限はサボってしまおうか。

「桐生っ!? 大丈夫か!?」
「宍戸君……何故ここに?」
「さっきすれ違った男子が、桐生が何とかって言ってたからよ……。気になって来てみたんだ」

 実は今朝もそうだったのだが、宍戸は他の生徒と違い俺に嫌がらせをする訳でも嫌悪する訳でもなく、出会った当初と同じ態度で接してきた。正義感が強いというよりは、他人に流されない性格なのかも知れない。

「そうですか……。でも僕なら大丈夫です、ほら」
「……ホントか?」

 適当に身体を動かして異常が無いことをアピールし、宍戸がさらに詮索してくる前にその場を立ち去ることにした。彼と親しくなることに抵抗はない。しかし、この先テニス部員とは間違いなく対立することになる。それなら最初から深く関わらない方がいい。後腐れなく済ませたいんだ、俺は。

「……もう戻りますね、まだ昼食を食べていませんので」
「あ、桐生……!」

 未だに心配そうな声を後ろから投げかける宍戸に悪いと思いながらも、教室に戻るためその場を後にした。俺の排他的な雰囲気を察したのか、宍戸が追ってくることはなかった。

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