刻まれた証

□12.等価交換
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決してお前達を信じてはやらないが

お前が俺を信じると言うのならば

その代価だけは支払おう


12.等価交換


親愛なる悠輝さんへ


これをあなたが読んでいると言うことは、私はもうこの世には居ないんだと思います。
そう考えると、とても寂しいです。悠輝さんにはもう一度会いたかった。

でも、多分私は死から逃れられないから、生きている今の内に伝えたいことを全部書いておきます。
勘違いしないでください。私は決して自ら死を選んだわけでも、死に逃げたわけでもありません。最後まで生き延びるつもりです。逃げ切るつもりです。

願わくば、この手紙が届けられることなく、また悠輝さんに会えますように。

悠輝さんが「今日からお前は俺の妹だ」って言ってくれたあの時。
今でもあの時のことは鮮明に覚えています。私があの日悠輝さんに出会えたのは、本当に人生最大の幸福でした。
あなたに会うまで、私はもう死ぬしかないとさえ思っていたんです。

悠輝さんに会う前の私は、言葉もほとんど分からない異国の地で両親と死に別れ、一人で途方に暮れていました。
もう死ぬしかないと思った時、私の絶望の人生に光が差し込んできたんです。

懐かしい母国語で話しかけられた時、涙が出そうなほど安心しました。
私を引き取ってくれるとまで言われた時、いつ死んでも良いとさえ思いました。
でも、それを言ったらきっと悠輝さんは怒ると思ってずっと心に秘めていました。

私が両親を亡くしたのは内乱のせいだったから、悠輝さんは自分が軍人なのを気にしていましたよね。
でも、私は全然気になんかしていませんでしたよ。

だって悠輝さんは軍の仕事で凄く忙しいはずなのに毎日きちんと家に帰って来てくれたし、私が一人の時も困らないようにと言葉も教えてくれた。
セントラルの街を案内してくれた事もあったし、他にも書ききれないくらい私によくしてくれましたよね。

こんな素敵な兄に恵まれた私は本当に幸せ者です。

私を日本の中学校に入学させてくれると聞いた時は、嬉しい反面悠輝さんに会えなくなる寂しさもありました。
でもやっぱり私は日本が好きだったから、日本に戻ろうと決めました。
私なんかのために名門の氷帝学園に入れてもらって本当に感謝してます。
この学校で私は男子テニス部のマネージャーとして自分なりに頑張ってきました。

氷帝の皆さんはとても優しく、毎日が楽しかったです。
ただ、最近少し誤解が生じてしまい辛いこともありました。
テニス部の皆さんは悪くないんです。誤解を解け切れなかった私の責任でもあります。
どうかそれだけは信じて下さい。

もし私に何かあれば、きっと悠輝さんは全部調べあげると思っています。
もしかしたら、悠輝さんが一度だけ口にしていた軍のお仕事のことと何か関係があるのかもしれません。

でも、きっと大丈夫ですよね。だって私は軍人じゃないから心配しなくていいって悠輝さんは言ってくれました。だから私はきっと殺されたりしません。
でも、怖いんです。死にたくない。


悠輝さん、お願いですから危ないことだけはしないでください。それがあなたのお仕事だと分かっていても、悠輝さんが傷つくのは辛いです。


私、ずっと悠輝さんに言えなかったことがあるんです。
あのね、私本当は一度で良いから、悠輝さんのことを“お兄ちゃん”って呼びたかったんです。

でも、どうしても後一歩が踏み出せなくて。呼べなくてごめんなさい。
それでも悠輝さんは私のたった一人の大切な家族です。

悠輝さんが居てくれただけで楽しかった。
幸せだった。
私はあなたの妹になれて本当に良かったと思っています。

本当にありがとう、お兄ちゃん。

P.S.何度も書き直したから途中からぐちゃぐちゃになってしまってごめんなさい。
この手紙は、最後まで私を信じてくれた芥川慈郎君に託します。彼は私の最高の親友でした。


あなたの妹の美咲より


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