次男総受け

□さにちゃん民は見た
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 俺は五年前から審神者をやっている二十代後半の男だ。中肉中背でフツメン。普通すぎることがある意味コンプレックスだが、全てが普通のため逆に安定感があると言われ、それなりの人生を歩んできた。審神者としても平凡な成績だが、本丸の奴らにはそれなりに慕われており、充実した毎日を送っている。

 そんな俺が最近ハマっているのがさにわちゃんねるだ。大体は雑談板で他の審神者と大した意味もない会話を楽しんでいる。他の人間との交流が少ない俺達審神者にとって、文字だけの交流でも十分価値がある。常に見た目は人間の刀剣男士達に囲まれた生活をしていようとも、やっぱり本物の人間との交流とはちょっと違う。神様には言えないこともあるんだ。
 先日も少し変わった新人審神者の書き込みを見て、自分が新人の頃の不安な気持ちを思い出したものだ。彼は無事刀剣男士達と分かり合えただろうかと心配になる。


「主は出て来なくていいから! 俺達が全部片付けるから!」

 相手側の加州清光の声がする。何やら必死になって向こうの審神者を制止しているようだ。刀剣男士達に囲まれた相手の審神者の姿は、俺からはほとんど見えない。

「主のご尊顔を下々の者に晒す必要などございません。どうかこちらでお待ちください」

 加州に賛同するように一期一振が優雅な動作で審神者に声を掛けている。言っている内容は何だか一期一振らしくないが。


「あれが審神者だと……? あんな霊力、人間ではあり得ない……しかし……」

 俺の近侍である長谷部が目を見開いてぶつぶつと呟いている。様子の可笑しい長谷部に控えめに声を掛けてみると、返事が遅れたことを謝りながら懇切丁寧に説明してくれた。

「向こうの審神者の霊力があまりにも高すぎて、とても人間とは思えず困惑していたんです。あれは人間と言うより神に近い存在です。しかし、刀剣男士の方はまだ大した強さではありませんね。ご安心ください、主の名に恥じぬよう、完膚なきまでに倒して見せましょう」

 へし切長谷部という刀剣男士はこんなにも好戦的な性格だっただろうか。まあいいか。とにかく早く演練を始めたい。俺は騒いでいる相手の方に少し近付いた。


「何度も言うけど俺は人間だからな!? 何回言ったら分かってくれるんだ!? 俺は松野家に生まれし次男、松野カラ松だ! 歴とした人間だから! 何の変哲もないただの人間なんだってばぁ……!!」

 自分が人間であることをこんなに必死に主張する人間など、未だかつて見たことがない。というか世界中探してもまず居ないと思う。どうやら高すぎる霊力のせいで人間と思われていないようだ。そんなバカな。

「大将、軽々しく真名を口にするもんじゃないぜ」
「ああ、どこの誰があんたを隠そうとするか分からないからな」

 薬研藤四郎と山姥切国広が厳しい声で窘めるように審神者を制している。一瞬こちらを睨み付けてきたのは気のせいだと思いたい。

「だからその真名とか隠すとか、一体どういう意味なんだ! みんなが何言ってるのか全然分からないんだが!?」

 相手の審神者は困惑した叫び声を上げながら、自分を取り囲む刀剣男士達を押しのけて少し前へ出てきた。その瞬間に晒されたその審神者の姿に、周りに居た他の審神者や刀剣男士達は息を呑んだ。勿論俺もその中に含まれている。

 あまりにも整ったその顔と、それに映える落ち着いた青い髪の青年。美形揃いの刀剣男士の中に居ても全く違和感のない、人間離れしたイケメンがそこに居た。

「あー、これは確かに人間じゃないわ。霊力もすげぇ……」

 無意識にそんなことを呟いてしまった。きっと俺の顔は間抜けな表情になっていたことだろう。

 相手の審神者の困ったように下がっていた眉は、対戦相手である俺と目が合った瞬間にきりりと上った。困り顔もイケメンだったが、かっこつけた表情は死ぬほどイケメンだった。

「演練相手の方か。俺は松野カラ松だ。まだ新人だが、よろしく頼む。同じ審神者同士、己を高め合おうじゃないか」

 青年改め松野カラ松は、やや大仰な仕草と物言いで俺に握手を求めてきた。俺は先日見た掲示板の痛い書き込みを思い出しながら、松野の差し出した手を握り返す。

「ああ、よろしく。……次男さん」

 審神者とは認められたようだが、どうやらまた新たな問題が発生しているらしい。良ければまたさにちゃんに書き込んでくれ。解決してやる自信はないが、話くらいなら聞いてやれる。

 まあとりあえず、お前が無事で良かったよ、次男。
 そして俺は改めて思う。イケメン滅びろ、と。


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