次男総受け

□お前はもうちょっと変わった方がいいよ
1ページ/1ページ


 チョロ松みたいに独占欲を剥き出しにする必要なんてない。かと言って十四松みたいに見ているだけじゃ満足できない。トド松みたいに悲しませる気はないし、一松みたいに傷つけるような馬鹿でもない。
 だって最後には俺の許に帰ってくるのが分かりきっているんだから、あいつらみたいにカラ松を縛り付ける必要なんてない。何故かって? そんなの言わなくても分かるだろ。俺はあいつらと違って、カラ松に愛されてるからに決まってる。


 カラ松が俺達の道から外れ始めたのは中学生の頃からだ。俺は面倒なことが嫌いだから勉強も全然しなかったし、部活にも入っていなかった。同じ遺伝子なだけあって、他の兄弟達も同じような感じだ。なのに、何故かカラ松だけが俺達と違っていた。カラ松は成績が良かったし、演劇部の活動にも熱心で、要はリア充街道を歩んでいた。気付けばあいつの周りにはいつも他人が集まっている。

 邪魔だ。汚い手でそいつに触るな。カラ松は俺の物なんだよ。カラ松の周りの人間、全部殺してやりたくなる。それでも俺は極力カラ松に干渉しないようにしてきた。だって束縛系彼氏なんて今時流行んねぇだろ。俺はあいつの恋人であると同時にただ一人の兄貴だから、寛大な所を見せてやんねぇとな。ああ、でもやっぱりムカつく。何であんな凡人共がカラ松の隣にいるんだ? 意味分かんねぇ。


 高校時代、外で喧嘩ばかりしていた俺。ずっと一人で喧嘩をしてきたが、ある時からカラ松が俺の傍で一緒に喧嘩をするようになった。真面目なカラ松は、自分が次男とバレないように大抵別の兄弟の色を身に着けてきた。意外とちゃっかりしている。最初は怪我をするのでないかと心配したが、カラ松は真っ当に生きてきた割に何故か喧嘩が滅法強い。俺ほどではないけど、少なくとも安心して背中は任せられるくらいには強い。他の兄弟じゃこうはいかないだろう。お前って本当に何でもできるよな。

 やっぱり俺の隣はお前だけだ。俺がお前にちょっかい出す人間を全部消してやりたいと思っているのと同じように、お前も俺の周りにいる人間に嫉妬してんだろ? 心配しなくても、俺はお前しか見てねぇよ。俺が他の兄弟といる居る時間が減った分、カラ松が俺の隣に居る時間が増えたよな。二人きりになりたいなら、そう言ってくれたら良かったのに。ああ、恥ずかしくて言えなかったのか。可愛い奴め。俺はそんないじらしい思いを汲んで、他の兄弟とは距離を置くようにしたし、カラ松が隣に居る時は喧嘩をあまりしなくなった。
 その代わり、カラ松が居ない時はいつも以上に喧嘩に明け暮れた。ただのストレス発散じゃねぇよ? 品行方正で成績も上々、教師の覚えも良いカラ松のことを気に食わない奴。演劇の才能を妬んでいる奴。そして、カラ松に懸想する身の程知らずの奴。そいつら全てを俺が始末してやった。俺のカラ松を害する奴は、この世にいらねぇだろ。カラ松はそんな俺を見て、「おそ松は強いな」といつも微笑んでくれる。な、長男は頼りになるだろ? お前に近づく奴は俺が全部消してやるから安心しろ。


 高校卒業後、兄弟で唯一大学に入学したカラ松は、大学生活が楽しいのか俺と過ごす時間が減った。彼氏より友達が大事って? それはどうかと思うぜ、カラ松。でも、俺はここでも広い心を持って許してきた。悪いのはカラ松じゃなくて、カラ松を誘惑する周りの人間だからな。そうだ、周りの人間がいけないんだ。邪魔だなあ、カラ松の周りの奴ら。カラ松の学校ってどこだっけ? 十四松がよくストーカーしてるから聞いてみるか。

 ああそうだ、邪魔と言えば、最近は弟達も邪魔だ。カラ松は弟に甘いんだが、それを良いことにあいつらみんな調子に乗っている。カラ松以外には興味がないからあんまり見てなかったけど、よく見ればみんなカラ松が好きらしく、いくら寛容な俺でも許せない行動が山程あった。
 チョロ松はカラ松を独占したがっている。一松はカラ松の気を引くために自傷行為。十四松はカラ松のストーカー。トド松はカラ松を自分以外から孤立させようとしている。確かにお前らも兄弟だから甘える権利はあるけどさ、そもそもカラ松は俺の物だってちゃんと理解してるか? お前らのやってること、兄弟に許される範囲を軽く超えてるからな? あーダメだ。カラ松に寛容な俺を見せたい気持ちと、カラ松以外は全部消してやりたい気持ちが拮抗して、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 そして遂に事は起こった。ある日家に帰ると、カラ松が家に監禁されていた。暴走したチョロ松達の仕業だろう。話を聞くと、カラ松が家を出て一人暮らしを始めようとしていたからとか。は? カラ松が俺を置いて出て行く訳ねぇじゃん。ここは俺の家だからまだ良いけど、俺の許可なく勝手にカラ松を監禁するとかあいつら何考えてんだ? まあ、カラ松は全く怯えてないし、むしろちょっと楽しそうなので、今回は許してやることにした。
 つーかお前、鎖に繋がれた状態で俺に笑い掛けてくるってどういうことなの。本当はもっと縛り付けられたかったのか? 俺は我慢して束縛しないようにしてきたけど、本当は束縛されたかった? 俺はカラ松のこと大事にしたいと思ってきたから、今まで手を出さずにいたけれど、これってお前からの誘いだと思っていいのか? 手を出されたいのか? 抵抗できない俺を好きにしてくれっていう合図なんだな? 何だ、我慢することなかったんじゃねぇか。恥ずかしがって言えないお前からの最大級の誘いを受けちまったら、俺ももう抑えが効かねぇからな。でも安心しろよ、とびきり優しくしてやるから。それくらい、俺はお前のことを愛してるんだ。


 カラ松と愛し合った後、目が覚めたら何故か首から背中にかけて滅茶苦茶痛かった。腰なら分かるけど、何で首? まあいいか。なあカラ松、俺は色々考えたけど、やっぱり付き合ってるなら恋人を一番に優先すべきじゃないか? お前が他の兄弟に優しいの、これまでは黙って見てたけど、お前が俺以外に優しくしたり構ったりするのってやっぱりおかしい。だってお前は俺だけの恋人だろ。ああ、分かってる。お前は優しいから他の奴らを無視できないんだろ。そもそも俺以外に兄弟がいるのがいけないんだよな。俺とお前の双子だったら良かったのに。でも大丈夫だぜ。他の奴らは俺が消しといてやるからな。そしたら俺とお前、唯一無二の兄弟で恋人だ。

 そんな訳で、弟達に抵抗されながらも殺し合いをしていたら、カラ松が俺達を止めに入った。怪我するから離れてろと言う前に、何故かカラ松が弟達を気絶させてしまった。早過ぎてよく分からなかったんだけど、たぶんカラ松がやったんだと思う。え、何? もしかしてカラ松も同じこと考えてた? だったらすげぇ嬉しい。俺は感極まってカラ松を抱き締めようとしたが、その後の記憶はあまりない。まあ、たぶんイチャイチャしたはず。

 大学を卒業したカラ松は俺でも知ってる大企業に就職した。両親は諸手を挙げて喜んでいるが、俺や弟達からしたら面白くない。抜け駆けとかそういう事言ってるんじゃないからな。働き出したカラ松はこれまで以上に家にいる時間が減った。残業があったり、会社の連中と飲みに行ったり、俺を一人にする事が多くなった。俺はお前を信じてるけど、まさか浮気なんてしてないよな? 疑心暗鬼に陥っていると、トド松が俺にある提案をしてきた。カラ松は俺と一緒にいるべきだ。そのために手を貸してやる。そんな内容だ。やっと弟達も俺達の仲を理解したのか。見返りが怖いが、協力してくれるならそれを利用しない手はない。

 トド松が何をしたかはよく分からない。ただ俺は、カラ松が珍しく病欠した日に、言われるがままにカラ松のカバンからICチップ付きの社員証をこっそりくすねてトド松に渡しただけだ。そして夜にはトド松からそれを受け取り、同じ場所に戻しただけ。それからいくらか経った後、カラ松は会社を辞めた。何でもクビになったとか。あいつ業績は悪い方じゃないって言っていたのに、何があったんだ?
 不思議に思ってカラ松に話し掛けると、トド松に社員証を渡したのはお前だろと言われた。何故かバレてる。渡したけどそれが? と答えたら、呆れたような目で見られた。トド松やチョロ松には、お前も共犯だとニヤニヤした顔で言われた。十四松には笑っているような笑っていないような微妙な顔で見られた。そして一松には、「お前の脳内お花畑だな」と言われた。全部意味が分からない。トド松お前何したの。でもまあ、お蔭でカラ松が家から離れなくなったからそれでいい。

 そしてカラ松が家で過ごすようになってから暫く経ったある日。カラ松が突然、何か思いついたような顔でぶつぶつと独り言を言い始めた。甘やかしすぎた、とか、時間を戻す、とか、よく分からないことを言っている。俺の恋人が不思議ちゃんになってしまったなぁと暢気に考えていると、何故だか意識がふっとなくなった。
 次に目が覚めると、意識を失う前と変わらず家の中に居た。が、体が少し縮んだ気がする。周りの弟達を見るとやはり縮んでいる。だいたい中学生くらいか? 理由は分からないが、どうやら俺達は過去に戻ったらしい。まあギャグ漫画の世界だしな。こういうこともあるだろう。
 ところで、カラ松も含めて他の弟達は過去に戻ったことについて何も言わなかった。もしかして俺しか気付いていないのだろうか? まあ、記憶があろうがなかろうがどちらでも構わない。それよりも、もう一度カラ松と青春時代を謳歌できるとか最高かよ。今度は前にできなかったことをやりたい。俺は特に深く考えもせず、二度目の学生時代を楽しむことにした。


 カラ松がおかしい。前は勉強も部活も熱心で、友人も多い典型的なリア充だったはずだ。なのに今のカラ松は何故か中二病を拗らせた痛い性格になってしまった。デートをしようと思って話しかけても、よく分からない言葉で誤魔化される。出掛けようとしているカラ松にどこへ行くか聞いても、カラ松ガールズの所へ行くとかふざけた答えを寄越してくる。お前、彼氏に堂々と浮気宣言か? だが、弟達にカラ松ガールズなんてただの幻だと言われ少し安堵した。まあ今の痛いカラ松じゃ、女には相手にされないよな。だが問題は解決していない。家に居ても、ひたすら鏡で自分を見ていて俺を見向きもしない。お前いつからそんなナルシストになっちゃったの? 確かにお前の顔は兄弟の中でもちょっときりっとしていてカッコいい方だけどさ、俺の顔を見ててもそんなに変わんねぇだろ? 俺の方を見ろよ。
 おかしい。何でだ。何でカラ松は俺に興味がなさそうなんだ。俺はお前の彼氏なのに、何で俺を無視するんだ。こんなこと許されないだろ。……ああ、そっか。俺を試してるのか。お前が俺にそっけなくしても、俺がお前から離れていかないか試したいんだな。そんなことしなくても、俺はお前のことが大好きなのに。ああ、でもカラ松。あんまり俺を蔑ろにするから、流石の俺も怒ってるんだぜ。ちょっとばかりお仕置きしてもいいよな?


 ある日カラ松が誘拐された。俺達は、誰一人助けに行かなかった。他の兄弟は今の痛いカラ松のことを邪険に扱うことが多かったから、本気で心配していないのかもしれない。だが、俺は勿論カラ松のことを心配した。犯人がチビ太と知ってからは安心しきっていたけどな。カラ松がチビ太如きにどうかされるはずがない。お前が俺を無視するから、これはちょっとした仕返しだ。俺はこんなにお前を愛しているのに、その愛を疑ったお前が悪いんだぜ。
 ただ、まさか俺達の投げた物が全部カラ松に当たるとは思わなかったから、正直死ぬ程後悔した。とりあえず怪我をしようが死のうがすぐに復活できることは分かっていたので、俺はカラ松が帰ってくるのをひたすら待っていた。それなのに、一日経っても二日経ってもカラ松はちっとも帰って来ない。その間にエスパーニャンコ騒動があり、一松がカラ松に痛めつけられたい願望を持っているという、至極どうでもいい情報を得た。さらにその後、一見感動的に見えるただの茶番劇までやらされた。
 茶番劇を終えてもカラ松は帰って来なかった。どこに行ったかも分からない。カラ松、何で帰ってこないんだ。俺のこと捨てたのか? 俺がお前を突き放すような行動を取ったから絶望して逃げたのか? そもそもお前が先に俺を試すようなことをしたからいけないんだろ。なあ、早く帰って来てくれカラ松。そうじゃなきゃ俺……


 数日後、カラ松がふらりと帰ってきた。怪我はほとんど治っているようだった。良かった。なあ、カラ松。俺はもう間違えない。お前が楽しいならそれでいいと思って、痛い言動も何も言わず見守ってきたし、お前を大切にしない兄弟にも目を瞑ってきた。でもな、やっぱり恋人を放って居なくなるのだけは駄目だ。俺達こんなに愛し合ってるのに、愛を疑うのは良くないだろ。俺さ、こう見えて寂しがり屋だから、お前が傍に居ないと本当に辛いんだぜ。なのに何でお前は俺を一人にするんだ? 一体何がお前を俺から遠ざけるんだ?

 ……あー、そっか。世界に俺とお前以外の人間がいるからいけないのか。俺とお前の二人だけになれば、お前が他の人間に気をとられる事もなくなって、俺だけを見るよな? 俺がカラ松以外の人間は全部消してやる。邪魔な弟達だって消してやる。あいつらはお前のことを痛いと馬鹿にするけれど、お前はそのまま変わらなくていいよ。どんなお前だって俺は愛してる。お前を傷つける奴らが全部いなくなって、世界に俺達二人だけになったのなら、そんなに素晴らしいことはないよな。ああ……楽しみだなあ……


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ