次男総受け

□むしろ俺がお前を養ってたんですがそれは
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 カラ松が僕ら六人の中で飛び抜けていることはちゃんと理解していた。実の所、子供の頃はそんなカラ松のことを妬ましくすら思っていたんだ。一卵性の僕らは同じ遺伝子を持っているはずなのに、何故カラ松だけがそんなに何でもできるんだろう、とね。子どもの頃はそうやって理不尽に嫉妬するだけだったけれど、歳を重ねる毎にそれは、憧れだとか羨望と言った悪くない感情に変わっていった。

 いつからだろう。みんなが狂い始めたのは。

 昔から、僕ら六つ子はみんなで一緒という感覚が強く、基本的に誰かと誰かが特別仲が良いと言うことはなかった。そんな中でもカラ松は良い意味で一番浮いていた。だからと言って別に兄弟仲が悪いわけじゃない。カラ松は兄弟に対して一番優しかったよ。同い年で一卵性の六つ子なのに、カラ松は僕らのことをとても甘やかしてくれた。それこそ恋人かのようなその扱いには、こちらが照れてしまうくらいだ。単純な僕らがそんな扱いをされたら、もれなく全員カラ松を好きになることなんて分かりきっているよね。

 それでも小学生の頃は、普通に仲のいい兄弟だったはずだ。カラ松は兄弟全員平等に接していたけれど、強いて言うのなら、相棒的存在であったトド松と遊んだり、カラ松を盲目的に慕っている一松と過ごしたりすることが多かったかな。何がどうしてそうなったのか、勝手にカラ松の恋人を気取っているおそ松兄さんは、懐の広い男に見られたいのか、自分だけを構わないことに文句を言うことはなかった。十四松はカラ松を見ている時間だけならダントツで長いけど、カラ松と会話している時間だとそこまで長くない。

 そして僕はと言えば、たぶん兄弟で一番カラ松と接する時間が短かったかもしれない。日常会話は普通にするし、一般的な兄弟と比較すれば仲が良い方だと思う。でも、他の兄弟達のような露骨な好意をカラ松へ向けることなんてできなかった。だって、おかしいだろ。実の兄弟、しかも顔がほとんど同じ六つ子の兄に対してこんな感情を抱くなんて。間違ってる。普通じゃない。こんな気持ちは早く消さないと。

 高校に上がった頃から、僕はカラ松のように真面目になろうと、必死に勉強をするようになった。それを見たカラ松が勉強に付き合ってくれるようになり、以前より一緒に過ごす時間が増えた気がして嬉しく思った。成績もカラ松には負けるけど、それ以外の兄弟の中では一番良いくらいまで伸びたな。
 そんな風に舞い上がっていた僕は気付かなかった。この頃のカラ松は、部活や委員会活動なんかで兄弟と過ごす時間が減っていたことに。夏休みのような長期休暇になって、僕はやっとその事実に気付いたんだ。他の兄弟に比べて、カラ松が家に居る時間は顕著に少ない。兄弟より大切なモノができたのか……? 嫉妬で胸がかき乱されたが、それでも僕はカラ松が離れていくのを止めなかった。本当はずっと六人で居たかった。いや、もっと醜い本音を言えば、僕だけと一緒に居てほしい。他の人間にも、兄弟にすら、カラ松を渡したくない。
 そんな普通じゃない考えは許されないことだから、必死に理性で押さえ込んだ。でも、他の兄弟達は違った。徐々に距離が離れていくカラ松に、みんなは耐えられなかったようだ。

 高校を卒業し、兄弟達が一気にヤンデレ度を増していくのを見て、内心焦りを感じていた。
 まず、おそ松兄さんは他の兄弟の誰もが最も危険視している。普段は静観している癖に、箍が外れた長男は何をしでかすか分からない危うさを抱えている。ただ、十四松情報によれば、カラ松は喧嘩も強いらしいので、そう簡単におそ松兄さんにどうにかされたりはしないはずだ。それに兄弟に甘々のカラ松も、何故かおそ松兄さんにだけは少し厳しいから、ある意味一番大丈夫だろう。
 トド松も厄介だ。あいつは人心掌握術に長けているから、カラ松を社会的に孤立させて自分だけに依存させようとしている。今の所酷い事態には陥っていないけれど、いつかカラ松が悲しむ日が来るに違いない。
 十四松は、まあ実害はないようだから今の所は放っておこう。
 それより、僕が一番問題だと思っているのは一松だ。昔からカラ松に憧れているようで、カラ松に気にかけてもらうことを何よりの喜びとしている。最近はカラ松の気を引くために自傷行為まで始める始末だ。何の努力もしないで悲劇のヒロインを気取っているその姿が気に入らない。その刃がいつかカラ松に向くのではないかと僕は気が気じゃなかったんだ。あいつは優しいから、きっと弟を拒絶できない。

 そんな狂人達に囲まれるカラ松を救うべく、僕は一つの計画を立ててカラ松を目の届く所に置くことにした。カラ松がずっと家に居れば、親の目もある訳だから兄弟達もそこまでぶっ飛んだ行動はしないはずだ。せっかく大学に入ったカラ松には申し訳ないけど、これはカラ松のためなんだ。お前なら分かってくれるよね?

 一番危険視している一松をあえて誘うと、怯えたように断られた。断るなら二度とカラ松には会わせないと条件を付けてやると、渋々と言った表情で承諾したけどね。別に断ってくれても良かったんだけどな。そうすればカラ松を一松には二度と会わせなくて済んだのに。ちなみに、トド松は僕の計画には乗らなかった。あいつは自分のことをあまり話さないから、考えていることがよく分からない。そう言えば、何故か協力を申し出てきた十四松がカラ松の行動パターンを知りすぎていることにわずかな恐怖を感じた。ただのストーカーだからそれほど害はないだろうと放置していたけれど、本当は結構ヤバい奴なのかもしれない。

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