次男総受け

□四度目はありませんのでご安心ください
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 また会えたなカラ松ガールズ。そう、俺は松野家に生まれし次男、松野カラ松。静寂と孤独を愛する男。
 俺は、愛し合うが故にお互いを傷つけ、エデンから抜け出す翼を失ったエンジェル達を救う使命を負っている。ブラザー達に狂おしい程愛される俺……なんてギルトガイなんだ。

 イタタタタ……久し振りにやったから痛い。自分で自分が痛い。ちょっと何言ってるか自分でもよく分からないからちゃんと補足しとこう。


 そもそもの発端は、一度目の人生で俺が普通に大学を出て就職したことが原因と思われる。六人で一人、俺があいつで俺達は俺。それを望んでいたニートの兄弟達は、兄弟から誰か一人だけが抜け出すことを良しとしなかった。

 俺が愛されていると言うより、六人がバラバラになるのが嫌だったんだろうな。着々とヤンデレに育ってしまった兄弟を見て、俺はこのままでは駄目だと思った。兄弟を更生できるのは、何故か兄弟からの依存が一番強いらしい俺しかいないと考えた。

 俺が兄弟の更生のために講じた策が、“中学時代からやり直そう計画”だ。ネーミングセンスが来いとか言わないでくれ。何でもアリなこの世界なら、時間を遡ることくらい簡単なんだぜ。
 時間を戻してもらって挑んだ二度目の学生時代で、俺は兄弟からの関心を失くすために痛い性格を演じた。それが冒頭のキャラクターだ。

 計画は非常に順調に進んでいるかに思われた。例のカラ松事変に至っては、計画が上手くいっている証拠だと思えて他ならなかったので、心の中でめっちゃガッツポーズしたし、エスパーニャンコの件は美しきごく普通の兄弟愛の象徴だと感動したさ。

 なのに、何故だ。一体みんなどこから狂ってた訳? エスパーニャンコ事件後に家に帰ったら、何故か兄弟のヤンデレが再燃していて、二度目の人生は頓挫した。辛い。

 まあ、つまり何が言いたいかと言うと、俺は再々度過去に戻り、今度こそ兄弟達が普通の兄弟関係を築くことを目指して頑張っている訳だ。


 前置きが長かったか? すまない。ちょっと今までの人生を振り返って反省したかったんだ。

 今度こそ絶対に失敗しない。前回失敗した原因は、兄弟に好かれ過ぎず嫌われ過ぎずという非常に難しいバランスの関係を目指してしまったからだろう。少し寂しいが、もうここは完全に嫌われることを目標にするしかない。兄弟に冷たい態度は取れないと思ってきたのが間違いだった。

 一度目はひたすら甘やかしたせいで依存心を育てヤンデレにしてしまったし、二度目は痛い言動で嫌われようとしたが、詰めが甘かったのかヤンデレを誘発してしまった。
 もうここは心を鬼にして、俺自身が兄弟を嫌っている態度で接しなければ駄目だ。みんなを嫌う振りをするのは辛いが、全ては愛する兄弟のためだからな。“六つ子一まとも”、“松野家の奇跡”と言われた俺ならきっとできる。

 誰も励ましてくれないから、自分で自分を修造ばりに励ましまくって頑張るぞ。
 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! 北京だって頑張ってるんだから!

 ……こんな感じかな! ……うーん。なんか、昔チョロ松を励ましまくって最終的にダメだったことを思い出してしまい、上手くいかないんじゃないかと萎えてきた。まあ、でも何とかなるだろう。何てったって三度目の正直だからな。


 三度目の性格設定は当初の予定通り不良で進めている。自分からは他人に話し掛けず、決して笑わない孤高の不良。それが三度目の松野カラ松だ。
 設定だけ聞くと中二病が残っているように思えるかもしれないが、今度は物理的にガチで危ない奴なので、周りの人間にはかなり恐れられている。俺の演技力が光ってるな。
 最近表情筋が固まってきた気がするのは、絶対気のせいじゃないと思う。誰にも見られないところで表情のトレーニングをしておかないと、本当に表情筋が死んでしまいそうだ。

 何はともあれ、中学時代へ戻った俺は、家族に見捨てられても仕方がないような不良を目標に非行の道へと走っていた。自分以下の人間を見れば、流石にあいつらも目を覚ますだろう。不良になった俺を見て両親は心底落胆している。昔のカラ松はどこに行っちゃったのと嘆かれると心が痛いが、俺一人を犠牲に五人が更生するのであれば、ハイリスク・ハイリターンだな。

 とりあえず、不良とは言っても警察のお世話にだけはならないよう注意しているから安心してくれ。今の所は主に喧嘩に明け暮れる毎日だ。殺人とか覚醒剤とかには絶対関わらない。

 最初の学生時代は、おそ松が居たから喧嘩の時には決して本気を出してこなかった。だが今回は一人で喧嘩していることもあり、初めて本気を出してみた。全力でいけば相手が何人であろうとも全戦全勝できた俺は、いつの間にか周辺の学生の間で番長だとか裏番長だとか呼ばれるようになったらしい。
 そして高校に上がってからも同じ事を繰り返していくと、俺に喧嘩を売ってくる奴はいなくなった。喧嘩する相手がいない場合はどうしたらいいんだろう。不良の世界のことはよく分からない。誰か教えてくれ。

 俺が内心困っていると、いつの間にか不良グループのリーダーとやらに仕立て上げられていた。俺は一匹狼設定なんだってば。群れてくるのやめて。
 何も考えずに不良の真似事をしていただけなのに、どうやらやりすぎたようだ。このキャラは失敗だったと反省したが、今更どうしようもない。気付いたら舎弟がいっぱいいるけれど、無口で自分から話し掛けない設定のせいで、面と向かって「俺に関わるな」と言えない。

 そうこうしている内にいつの間にか関東を制圧していたらしい。仮にもリーダーのはずなのに聞いてないなんてヤバい。え、この間俺が倒した不良の一人が、敵対グループのリーダーだったのか? マジか、超ヤバい。勝手に俺の右腕を名乗っている不良が、目をキラッキラさせて見つめてくる。お前誰だ。「次は全国制覇してやりましょう総長!」だって? 何それ怖い。

 まあそちらの問題は今は置いておくとして、肝心の兄弟達がどうしているかについて話そうか。先程も言った通り、今度の俺はグレており、兄弟達と決して馴れ合わないし、自分からは一言も話し掛けないようにしている。話し掛けるなオーラも出しているので、滅多に話し掛けられることもない。

 だが、そんな不良を演じているにも関わらず、何故か兄弟達の視線が俺から外れることはなかったし、俺から離れていくこともなかった。何故だ、分からん。こんな厄介者の不良なんて、目にするのも嫌だろうに。
 俺に構うなと言って突き放してしまいたいが、自分からは話し掛けない役と決めてしまったので、今更役柄を変えることは俺のポリシーに反する。うーん、このままでは俺から関心を逸らすことができない。非常に困った。ひたすら無視するしかないかな。

 ちなみに三度目である今回、みんながどんな感じなのか伝えとこうか。まあそんなに変わらないんだけど。


 トド松は少し怯えたような表情をしながらも、いつも俺の後ろを少し離れて歩いている。見られていると喧嘩がとてもやり辛い。巻き込む訳にはいかないしな。
 何故こんなに俺の後をついて回っているかというと、恐らく俺の交友関係が把握できないからだろう。これまでは俺のスマホやら友人を介して見事俺を孤立させてくれたが、今回はそもそも私物を触らせたりしないし、一人でいる時以外は極力兄弟を撒くようにしている。悪い奴らに目をつけられたらまずいからな。

 俺の後ろを付いて回る末弟は正直雛みたいで可愛いとか思ったが、不良はそんなこと言わない。兄弟達を社会的ヒエラルキー上位に引き上げるために頑張ってくれトド松。信じてるぞ相棒。

「どうしよう……何でカラ松兄さんグレちゃったの? しかも中二病じゃなくて、本物の不良じゃん。これじゃあカラ松兄さんを孤立させて依存させるなんて絶対無理……。むしろ兄さんは一人を望んでるよね? 孤立させても喜ぶだけだよねこれ。カラ松兄さん、僕のこと嫌わないで。僕はカラ松兄さんだけが好きなんだよ……」

 お前の言う通りだよ。俺を一人にしといてくれ。お前の力で俺を孤立させてくれたっていいんだぜ? むしろしてください。


 十四松もトド松のように常に俺の傍に居て俺を監視している。何故かいつも陰から俺を見ているので、トド松とは違って本当にストーカーっぽい。時々俺でも気配に気付けないことがあるくらいだ。腕を上げたな十四松。お前忍者の才能があると思うぞ。
 トド松と同じく、喧嘩をしている時や舎弟(仮)に会う時は十四松のことを撒いてからにしているのだが、それが良かったのか悪かったのか、最近俺をストーキングしていない時間が増えてきた気がする。

 十四松はもっと自由に生きてくれ。もう野球は一緒にやってやれないが、野球部に入ってみたらどうだ? お前の活躍を楽しみにしてるぞ。

「カラ松兄さん、今までは俺がずっと見てても何も言わなかったし、むしろ俺が見やすいようにいつでも人目のある所に居てくれたのに……何で最近は急にいなくなったり姿を隠したりするんだろう……? 俺に見られるの嫌になっちゃった? わがままは言わないから傍に居させて。俺はカラ松兄さんだけが大好きなんだ……俺ずっと他の誰も見ずに、カラ松兄さんだけ見てるんだよ……?」

 ん? これってアクティブなストーカーが引きこもりなストーカーになっただけか?


 一松は学生時代を繰り返す毎にネガティブさが増しているのは気のせいだろうか。いや、気のせいじゃない。何だか俺が不良になったことについて勝手に責任を感じているようなんだが、別にお前のせいじゃないからそんな落ち込まないでいいんだぞ。
 ……いや、ちょっと待てよ、一松達が原因なのは間違いではなかった。だいたい兄弟達のせいだ。でもたぶん、お前が考えてる理由とは絶対に違うと思うので、そんなに塞ぎ込まないで欲しい。罪悪感で不良キャラが崩れそうになるから。剣呑な態度を取っていても、本当はお前が誰よりも優しくて繊細なの、俺は分かってるぞ。

「俺のせいだ……俺がカラ松をグレさせたんだ……。明るかったカラ松が一度も笑ってないなんて、やっぱり俺がお前の心を傷つけたからだよね……。冷たい目で蔑んでくれとか思ってたけど、そんな顔をさせたかった訳じゃない。俺はカラ松だけを愛してきたのに……。ああ……僕なんかがカラ松兄さんを愛することが間違いだったんだ……」

 一松、お前そんなに思い込みの激しいタイプの人間だったっけ? どんどん加害妄想が悪化してるぞ。


 チョロ松は今回も兄弟で唯一就職しようと努力しているらしい。頑張れチョロ松、今回もお前は兄弟で一番常識人だぞ。
 ただ、なぁ。求人誌を見るのもいいし、ハロワに通うのもいいが、相変わらず目標が高すぎて一向に成功しそうにない。アドバイスしてやりたいけど、今の俺には絶対に不可能なことだ。

 あと、ワンルームマンションを探すのはいいんだけど、俺と一緒に住むことを前提で探すのはやめてくれ。弟に養ってもらう不良とか、絶対にかっこつかないだろ。生温い目で見られるわ。とりあえず、兄弟達を真人間に引っ張り上げる役はお前に任せたからな!

「カラ松、なぁカラ松。何でお前はいつも僕から逃げて行くんだ? 僕だけがお前を幸せにしてやれるのに……。五人の中なら僕が一番まともだろ? たとえ不良になったって、僕はお前を見限ったりしない。だから戻って来てよカラ松……。僕が好きなのはカラ松だけだよ……分かってるだろ……?」

 チョロ松は態度が一貫しているけど、時を重ねる毎に着々とヤンデレ度が増してるよな。


 おそ松は相変わらず俺のやることを否定せずに黙って見守ってくれている。兄っぽいぞおそ松。でも、たまに箍が外れたように暴走することがある。勝手に俺を装って行動してみたり、一日中俺の後をつけてみたり、自傷行為をしてみたり、手枷足枷を買ってみたり……。
 ちょっと待て、おそ松! これって弟達のヤンデレタイプを全部引き継いでないか? やめろ、めんどくさい。そんな所まで兄弟のベースになるんじゃない。

 とは言え、何だかんだ言ってもおそ松は長男だからな。みんなのリーダーとして弟達を正しい道に導いてくれると信じてるからな。頼りにしてるぜ兄貴!

「カラ松、俺のこと捨てるつもりなのか? 俺を捨てて誰かの許に行くつもりなのか? んなことぜってぇ許さねぇからな……お前は俺のモノだ……お前を失うくらいなら、お前を殺して俺も死ぬ……。俺のこと、あんなに愛してるって言ってたのに、何で……。俺が愛してるのはカラ松だけだ……お前もそうだろ……?」

 いや、言ってない。一言も言ってない。お前は今も昔もどこまでが現実でどこからが妄想なのか曖昧過ぎるぞ。

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