次男総受け

□その後の彼ら
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 ああ、カラ松なぁ……。正直悪いことしたとは思ってるぜ。カラ松にじゃねぇぞ、他の兄弟達に対してだ。
 だって、真面目なカラ松があんな風になるとは思わなかったんだ。

 すまねぇ、マジなんかすまねぇおそ松達……!

 昔カラ松から、兄弟にもっと好かれるにはどうしたらいいかと相談を受けたことがある。あいつは兄弟の中でも良い意味で浮いていたから、それを気にしているのかと思って相談に乗ってやった。
 確かその時おいらは、兄弟を甘やかしてやれば良いんじゃないかと答えてやった気がする。

 結果から言うと、カラ松はどう考えてもやりすぎた。詳細は言うまでもねぇよな。みんな気付けば盲目的にカラ松を慕っていた。誰がそこまでやれと言った。おめぇが相手にしてるのは恋人じゃなくて男兄弟なんだぞ。献身的すぎるぞバーロー! おめぇはヤンデレ製造機かってんだ、てやんでぇバーローちくしょー!

 そんな兄弟に甘々すぎるカラ松でも、流石にこのままじゃいけないと気付いたらしい。おいらはやっとカラ松が正気に戻ったかと安心した。ある日から何故か二度目の人生を歩むことになったおいらは、何となく事情を察した。

 何故か痛い奴になったカラ松を見て、兄弟に嫌われようとしているのだと気付いたし、これでカラ松に平穏な毎日が訪れるだろうと安心もした。痛いキャラは残念すぎるが、社会人になる頃には戻るだろうとも思っていた。
 まあ、結局戻らなかった訳だけど。そもそも社会人にすらならなかった訳だけど。一体どうしたカラ松。

 とりあえず奴の思惑通り、六つ子はぱっと見、カラ松に対して昔のようなヤンデレさを発揮していないようだ。むしろ扱いが悪い。カラ松はそれでも満足そうだった。
 けどおいらは、昔あんなに良くしてやっていたカラ松が他の兄弟に邪険にされているのを見て、何だか悔しい気持ちになった。ヤンデレは駄目だが、兄弟として仲良くするのは良いことだからな。

 そして色々考えた結果、余計な御世話だとは思ったが、一つの計画を立てて実行することにした。それが後にカラ松事変と呼ばれる事件だ。

 おいらはカラ松を誘拐して兄弟の仲を取り持とうとしたのだが、あろうことかニート共は身代金はともかく、助けにすら来なかった。怒りが収まらないおいらは、兄弟の成長が見られたから満足だとか訳の分からないことを言うカラ松を押し切って、二度目の挑戦をした。

 だが、結果は散々なものだった。六つ子達はカラ松に物を投げつけ怪我をさせる始末だ。あ、こりゃカラ松の扱いを変えるのは無理だな。そう悟り、申し訳なく思いながらもカラ松を置いておいらは帰った。

 そしてそれから数日後、何故か再び世界は時間を巻き戻し、またしても中学時代に戻された。まさか、カラ松が自分の扱いを嘆いて時間を戻したのだろうか? まあ、それならそれで、今度は普通の兄弟になれるといいな。おいらも罪悪感があるから、カラ松には幸せになって欲しいと思っている。

 ただ、少し心配なのは、何故かカラ松が不良になっちまったことだ。兄弟に嫌気がさしてグレちまったんだろうか。何の因果か、今回は六つ子達とほとんど関わることなく成人したおいらは、あの幼馴染が今何をしているかは知らなかった。

 だから今日たまたま街で声を掛けてきたあいつを無視したのも仕方ない。何で声掛けたんだカラ松……。おいらが目を逸らして逃げようとしたの気付いただろ。何でわざわざ呼び止めた……。

 不良になったと聞いていたが、カラ松の見た目はむしろ爽やかな印象すら受ける。強いて言うなら、何でそんな黒塗りのリムジンから降りてきたのかってことと、何でそんな高級そうなスーツを着てるのかって所だが、とても聞けやしない。お前が変わってなくて安心したぜ、なんてお世辞にも言えなかった。

「チビ太、久しぶりだな! 最近見ないからどうしているかと思ってたぞ!」

 普通! 予想以上に普通の対応! おめぇはそんなに普通なのに、後ろの奴らは一体何なんだ? 何かカラ松よりもよっぽど怖い奴らがカラ松の後ろに一糸乱れぬ姿で控えてるんだけど。久し振りだしゆっくり話そうと言って、訳が分からぬままにリムジンに乗せられデカい建物に連れて行かれた。帰りたい。死ぬほど帰りたい。

 豪華な応接セットに座らされ、おいらは身が縮む思いだった。向かいの椅子に座るカラ松が煙草を取り出すと、同じく高そうなスーツを着た厳つい兄ちゃんがすっと火を差し出してきた。反対側からは灰皿が差し出されている。随分ト至レリ尽クセリデスネ……。

 いや、もういい。この際それは見なかったことにしよう。詳細とか知りたくねぇし、関わりたくもねぇ。松野組を立ち上げた? 軌道に乗ってる? あぁ、そう……。年商1兆円を超えた……!? あの、おいらもここで働いていいか? つーか一体どうやって稼いでんの……?

「チビ太なら歓迎するぞ! 安心してくれ、ウチは結構クリーンな仕事しかしてないから。大体は不動産業と飲食業と風俗業で生計を立ててるな。少しだけ脱税とか粉飾決算で手に入れた資金をマネーロンダリングして株式に投資したりもしてるけど……まあインテリヤクザ名乗ってるし、それくらいしてもいいよな?」

 全然用語が理解できねぇ。でもとりあえず、絶対やっちゃいけないってことだけは分かる。やっぱり雇ってもらうのはやめよう。もうはっきりヤクザって言っちゃってるし。

 何? やり直せなかったから、堅気の道から外れたまま頑張るしかなかった? おめぇの事情とか知るか!

 不良通り越してヤのつく自由業の組長として何かすげぇ経営手腕を発揮していることはもう受け入れよう。けど、お前の周りの奴らのことは流石に見過ごせねぇんだよなぁ……。

 たとえ会わなくても、おいらは六つ子共が普通の兄弟愛を育んでいることを願っていたのに、何でそうなっちゃったんだ? カラ松おめぇ、兄弟を更生させるんじゃなかったのか?

 とりあえずヤンデレじゃなくてデレデレにすればマシになるかと思ったって? そりゃ病んでるよりはいいかもしんねぇけど、それはちょっと方向性間違え過ぎだろバーロー! だから、何でてめぇらは普通の兄弟になれねぇんだ!? おいら、もう帰っていいかな? 帰っていいよな?

 蕩けきった赤い顔でカラ松にしなだれかかる兄と弟達を侍らせながら、やりきったと言わんばかりに満足そうなドヤ顔をしているカラ松を見て、おいらは心の底から叫んだ。


「どうしてそうなった!」


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