リーファさんが、あのリーファさんが……! 他の男と一緒に旅をするって……? 「ありえねぇっ……!!」 掛けようかどうしようか三日間迷った末に、やっとの思いで掛けたリーファさんへの電話。そこでリーファさんの口から聞いたのは、衝撃の事実だった。 いつの間にかシンオウに居たのにも驚いたが、他の奴と一緒に旅をすると聞いたところで俺の思考回路は停止した。嬉しそうに話すリーファさんの声はいつもよりも更に高くて可愛らしかったが、そんなこと言ってる場合ではない。 「リーファさんと一緒に旅……しかも相手は男だと……!?」 その身の程知らずの男はコウキと言うらしい。口振りからしてリーファさんより年下のようだ。いつでもリーファさんとバトルできるとか羨まし過ぎんだろ! しかも一緒に旅するってことは、バトルだけじゃなくて、話もいつでもできる訳だし、食事も一緒だ。……寝起きの姿とか……ふ、風呂上がりの姿とかも、見られるかもしれないって訳だな……。 つーか、男と二人旅なんて大丈夫なのか……? って、俺は一体何の心配をしてんだ……! いやでも、リーファさんってすげぇ綺麗だし、何となく無防備だし……そりゃ誰だって心配するに決まってる。いくら年下とは言え、男は男だ。 リーファさん、男はみんな狼なんすよ……! いや、ちょっと待て! 俺ってそんな目でリーファさんのことを見てたのか!? これじゃあまるで……いやいや、違うだろ! 俺はリーファさんのことを純粋にポケモントレーナーとして尊敬してるんだ。何考えてんだ俺は……。 みんなにポケモン馬鹿と言われるほど単純な俺の頭では、このもやもやした感情に対処できなかった。とりあえず、俺よりは大人で、悔しいが俺よりモテていそうなグリーンさんに相談してみよう。 「あ、もしもし、グリーンさんっすか? 実は……」 リーファさんのことを話した途端、しばらく無言になったかと思えば、早々に電話を切られてしまった。いつもながら一方的な人だ。 ただ、電話したことは無駄じゃなかったみたいだ。 電話を切られる前に言われたグリーンさんの言葉が頭の中で反芻する。 ――お前も自分の気持ちに気付いちまったのか…… つまりそれって、やっぱりそういうことなのか。俺は、リーファさんのことを…… 本当はグリーンさんに言われる前から自分でも分かっていた。でも、そんなこと駄目だと思って自分の気持ちから目を背けていた。 初めは本当に純粋な憧れだったんだ。最強のトレーナーと呼ばれていたリーファさんに憧れた。戦いたいと思った。実際に会ってみれば、その憧れは消えるどころかむしろ強くなった。そして同時に、新たな感情に火がつくのに気付いた。 ポケモンバトルをしている時に見せる凛とした姿や、見ているこちらまで幸せになる輝く笑顔、慈愛に満ちた優しい性格。その全てに惹かれた。そして、バトル以外でも会うようになると、俺は転げ落ちるようにリーファさんに溺れていった。 俺よりずっと華奢な身体を見ていると、無意識に庇護欲が掻き立てられる。困ったように笑うその笑顔は誰にも見せたくない。ポケモンバトルを抜きにして、ただただリーファさんと過ごしたくなる時がある。 本当はただの後輩でなんていたくないんだ。けれどそれは、リーファさんへの裏切りかもしれない。俺はずっと、リーファさんの強さに憧れていると公言してきた。今更あなたが好きなんですなんて言えない。失望されたくない。 ああ、でも。それ以上に、リーファさんを誰かに取られたくない。 グリーンさん。俺、ポケモンバトルだけじゃなくて、リーファさんのこともあんたに負けるつもりはありませんから。 幼馴染だからって優位だと思うなよ。幼馴染なのに未だに成就していないあんたより、新進気鋭の俺の方が可能性があると思いませんか? あ、ついでにまだ見ぬコウキとかいう奴も覚悟しとけよ。 俺は一度決めたことは絶対にやり遂げる男だ。それがどれだけ困難なことでも、自分の望みは全て自力で叶えてきた。 リーファさんを手に入れるのは、この俺だ。 |