ホラー・狂愛夢

□日焼けサロン
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 私の親は会社を経営しており、どうやら世間一般から見れば金持ちの部類に入るらしい。もちろん生徒会長とテニス部部長を務めている、かの有名な跡部景吾程ではないけれど。

 その景吾とは、両親が経営している会社と契約をしてもらっている関係で人並み以上に親しかった。そして、親が大企業の重役を務めている友人の美奈も、私と同様に跡部家とは家族ぐるみの付き合いをしている。

 そんな私達は夏休みの始まる一週間前に景吾に呼ばれ、男子テニス部の部室を訪れることとなった。

「来週からこいつらレギュラーと合宿も兼ねて俺の別荘に行くんだが、菜月と美奈も誘うよう親に頼まれてな。どうだ、来るか?」

 突然の話に驚いて事情を詳しく聞くと、正式な合宿ではなく、あくまで旅行として跡部家の保有するプライベートビーチに行くらしい。それを私と美奈の両親が景吾のご両親から聞いたらしく、忙しくどこにも連れて行ってやれない自分達の代わりに一緒に連れて行ってやって欲しいと頼んだそうだ。

 そんなことしてくれなくても良いのに、と少し恥ずかしい気持ちになったが、実際こんな大勢で旅行に行くのはとても魅力的だと思う。私と美奈は笑顔で顔を見合わせた。

「な、菜月達も行こうぜ!」
「折角の休みなんやし、たまにはハメ外してもええんちゃう?」
「そうよね! 私も行く! もちろん菜月も行くでしょ?」

 私は向日君や忍足君に笑顔で誘われ、更には美奈にも「当然行くでしょう?」という口振りで聞かれ快諾した。その後、上機嫌で帰宅した私達は、1週間後の旅行に思いを馳せながらひたすらその話題に花を咲かせていた。

 そして女二人であれば必然的に恋愛の話題も出る。絶対に忍足君を落とすんだと意気込んでいる美奈に呆れつつも、内心では私も景吾と……などと考えていた。

 しかし、よくよく考えてみれば私達二人は俗に言うお嬢様育ちってやつで、運動もしていなければ肌は真っ白。いや、色白と言えば聞こえは良いが、むしろ不健康そうな青白い色に近い感じだった。

 運動部の彼らを前に、これでは水着を着て砂浜を歩けないと言うことで、私達は急遽日焼けサロンで肌を健康的な小麦色に焼くことにした。出発は一週間後で時間がない。私と美奈は早く体を焼くために、1日に何軒も日焼けサロンを回った。


 そんなことを続けていたある日、美奈が激しい腹痛を訴え、酷く苦しんだ後に亡くなってしまったのだ。友達の死に深く悲しみながらも、やはり日焼けサロンを過剰に利用したのがいけなかったのかと不安になり、私は病院に駆け込んだ。



「非常に珍しく、あなたにとっては辛いお話ですが……」

 レントゲンや内視鏡などの検査をした後、医者はそう切り出して検査結果を私に告げた。

「残念ですが、あなたのお腹の中は半分焼けてしまっています。まるでオーブンか何かで体の中を焼かれたような状態です。何か心当たりはありませんか?」

 そう、私は日焼けサロンに通って長時間肌を焼きすぎたために、皮膚だけではなく内臓まで焼いてしまったのだ。

 一度焼けた肉を元の状態に戻す方法がないように、私の内蔵を健康な状態に戻す方法はない。

 私は酷い腹痛に苦しみながら取り返しのつかないことをした自分を嘆いたが、美奈と同じ末路を辿ることは既に分かっていた。



どう考えてもこんな事はありえませんね。


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