ホラー・狂愛夢

□紫の鏡
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 この間セントラルで知り合ったウィンリィという年下の女の子。彼女は確か十五歳だと言っていた。もうすぐ二十歳になる俺にとっては可愛い妹ができた気分だ。

 ところで、彼女は怖い話だとか都市伝説のような話題が大嫌いらしく、俺がそう言った話を持ち出すとぶるぶる震えてやめろと抗議してくる。とは言え、何だかんだ言いながらもいつも最後までしっかり聞いている所を見ると、恐怖より好奇心の方が勝っているらしい。そんな所が可愛くて、こうしてからかうことをやめられない。

「ウィンリィ、面白い話してやるよ」
「面白い話って……もしかしてまた怖い話!? もう、いい加減にしてよね刹也!」
「でも結局最後まで聞くんだろ? 本当に怖くなったらやめてやるから、取り敢えず黙って聞けって」

 さあ、今日はどんな話をしてやろうかな。そうだ、たまには趣向を変えてあの話でいくか。

「ウィンリィは、『紫の鏡』って言葉を知ってるか?」
「ムラサキノカガミ……? 何それ、日本語?」
「あぁ、こちらの言葉で言えばパープルミラーってことだ。この言葉は二十歳になるまで覚えていてはいけないと言われている」
「どうして?」

 この言葉には呪力が込められているそうだ。そして、この言葉を二十歳まで覚えていると、その呪力によって死に至るらしい。

 これだけ聞いても何だかピンと来ないが、日本で聞いた話によるとこういう言い伝えがあるらしい。

 昔ある女の子が、大切にしていた手鏡を紫色の絵の具で塗りつぶすと言う悪戯をした。勿論、女の子はその後鏡を綺麗に洗おうとした。ところが、何故かこの紫色の絵の具はどんなに洗っても落ちることがなかった。お気に入りの鏡を駄目にした自分の行為を悔やんだ少女は、一日たりとも鏡の事を忘れなかった。

 あまりに気に病んだせいで、その少女はやがて病気がちになり、ついには衰弱して二十歳の若さで他界してしまった。

 今際の際に「ムラサキノカガミ……ムラサキノカガミ……」と呟きながら。

 それ以来、「紫の鏡」は呪われた言葉となったそうだ。そして、二十歳になるまでにこの言葉を忘れないと、少女のように衰弱して死んでしまう。もしくは鏡の破片に全身を貫かれて死ぬ、とも言われている。

「えー!? もしこのままずっと覚えてたらどうしてくれるの! 刹也のせいよー!」
「そんなこと心配しなくても大丈夫だって。お前が二十歳になるまでにあと五年もあるんだから」
「うぅ……でも、もしもってこともあるじゃない?」
「もし本当に二十歳近くになっても覚えていたら俺の所に来い。何とかしてやるから」

 言ってしまったら面白くないのでウィンリィには黙っていたのだが、どうしても忘れる自信がないという場合に一つだけ助かる方法が残されているそうだ。

 実は呪いを打ち消す言葉さえ覚えていれば何の心配もない。たとえ二十歳になった時に「紫の鏡」という言葉を忘れないでいても、呪い避けの言葉さえ覚えていれば、その言葉の力が紫の鏡の呪力を打ち消すので助かることが出来るそうだ。

 その言葉は何かって? 教えたいところだが、残念ながら俺は知らない。それを知ったら面白くないだろ?
 そして俺は来週二十歳になる。本当に呪いなんてものがあるのか試してみるのも悪くない。



呪い避けの言葉はググればすぐ見つかりますが、質問が多かったので次ページに解説を載せました。気になる方はご覧下さい。

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