ホラー・狂愛夢

□振る手
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 柳に仁王、ブン太、ジャッカル、切原、そしてこの俺の6人は、夏休みの練習のない日の夜、肝試しをするために廃墟の建物へ来ていた。

 他のレギュラーも誘おうと思ったのだが、幸村は入院中だし、柳生は家が厳しいらしく夜の外出は断られ、真田に至っては下らんの一言で一刀両断されてしまった。それでも6人集まったのだから、肝試しというイベントとしては十分な人数だ。

「うわぁ……マジで不気味……」
「あ、刹也先輩ビビってんすか?」

 いくら大人数で来たとは言え暗闇で見るその廃墟は迫力があり、流石に少し怖気付いてしまう。そして、そんな俺の呟きに気付いた切原が面白そうに俺をからかってきた。そんなに大きな声を出したつもりはないのに、本当に目敏い奴だ。

「ビビってねぇよ! 切原こそ、実は怖いんじゃねぇのか?」
「俺は全然怖くないっすね!」
「俺だって怖くねぇよ」

 反論した俺を見て益々調子に乗る。にやにやと俺を馬鹿にしたような顔をしやがって、全く生意気な奴だ。いっそ本当に幽霊でも見て吠え面をかけば良いのに。

「じゃ、刹也と切原が最初でいいよな」
「えー? 俺、切原と?」
「だって怖くないんだろぃ?」
「最初に行くのは良いけど……こいつとは行きたくねぇ」
「何すかそれー、酷くないっすか刹也先輩!」

 切原と一緒に行くと、わざと驚かされたり、からかわれたりしそうで面倒臭そうだ。できれば、絶対俺をからかわないだろう柳とかジャッカル辺りと行きたいな……。

「赤也が嫌なら俺が付いてっちゃる」

 俺と切原が揉めている(周りからするとじゃれているようにしか見えないらしいが)と、仁王が口を挟んできた。

「んー? ……そうだな! 一緒に行こうぜ、仁王」
「え、ちょっ、#NAME2##先パーイ!?」

 切原が驚いたような顔をしながら俺に纏わりついてきて、絶対からかわないから一緒に行こうと誘ってくるが、さっさと行って早く帰って来たかったので仁王と行くことにした。

「残念じゃったな」
「くっ……! 仁王先輩……!」

 仁王と切原が睨み合っているように見えるのは気のせいだろう……たぶん。

 何だか知らないが火花を散らしているらしい二人は放っておいて、柳から懐中電灯を受け取り、廃墟に入る準備をした。どうやらこの建物は4階まであるらしい。俺達は一番上の階まで行き、上った証拠として蝋燭を置いてくることにした。

「仁王、何やってんだよ! 早く行こうぜ!」
「今行くぜよ。……じゃあな、切原クン」

 勝ち誇ったような仁王の顔と、心底悔しそうな切原の顔は見なかったことにしよう……見なかったことに……。

「気をつけて行けよ?」
「心配ないって。じゃあ行ってくる」

 ジャッカルが心配そうに俺に声を掛けてきた。相変わらずいい奴だ。苦労人同士、これからも一緒に頑張ろうなジャッカル……。




「うわ、マジで真っ暗だな……」
「本当に何か出そうじゃな」
「何だかんだで仁王も怖いんだろー」
「成程、お前さんには俺がそんな風に見えとぉ訳か。それじゃあ、怖がりな俺は先に一人で戻るきに、蝋燭は刹也に頼むぜよ?」
「あーあー! 冗談、冗談ですよ仁王様! 俺を置いてかないでー!」

 さ、流石に一人は怖い……。俺が慌てて仁王の腕を掴むと、にやにやした顔で「怖いなら手でも繋いでてやろうか」なんてからかわれた。そうだった、仁王ってこういう奴だった……。これなら切原と一緒の方がまだましだったかもしれない。俺ってどこまでもいじられキャラだな……。



 その後一階を一通り歩いた所で俺達は二階へ上がることにした。一人でなければ余裕のある俺は、二階にある窓から少し身を乗り出し、窓の下に向かって「楽勝ー!」などと言いながらみんなに手を振った。下の奴らも笑いながら早く行けとけしかけてくる。

 それから何事もなく三階に上がり、また同じように窓から手を振った。しかし、下の4人が先程とは違い、焦った様子でこちらに向かい何か言っている。


「おい二人とも! 早く降りて来るんだ!!」
「刹也先輩! 仁王先輩! 早く戻ってきて下さい!! そこヤバいっす!!」

 普段冷静な柳でさえも俺達に戻ってくるよう声を張り上げている。しかし、実際に中を歩いている俺達は幽霊なんて全く見ていないし、かと言って建物が崩れそうだという危険の兆候もない。

「様子が変じゃ、戻るぜよ刹也」
「きっと俺達のこと脅かしてんだろ? あと一階じゃん。折角だし行ってから帰ろうぜ」
「刹也! ……全く、仕方ない奴じゃな」

 戻ろうと言う仁王を制し俺が先へ進むと、苦笑しながらも仁王が俺の隣へ並んだ。そして、結局4階まで上り、蝋燭を置いてからばっちり手も振って戻った。4階でもブン太達が早く戻って来いと叫んでいる。流石に心配になった俺達は、足早に階段を下りて建物から出た。



 外に出ると真っ青な顔をした4人が呆然と立っていた。先程まで威勢の良かった切原ですら元気がない。

 事情を聞くと、皆言いにくそうな表情で顔を見合わせていたが、意を決したように柳が静かに口を開いた。

「お前達が2階にいる時までは何もなかった。だが、3階で手を振っている時……」



 お前達の手に混じって無数の白い手が窓から飛び出し、こちらに向かって手を振っていたんだ……



さり気なく仁王VS切原。
仁王君、君の言葉難しいんだよ…。
あのよく分からん方言はすごく萌えるが、個人的には時々標準語に戻ったりしてくれたら更に萌える。
ホラーより自分の萌えに走りました。


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