ホラー・狂愛夢

□読心術
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「なぁ一護〜……つまんねぇ」
「お前なぁ……。次赤点取ったら留年かもしんねぇんだろ? 真面目にやれよ」
「だってよぉ……」

 俺と刹也は明日からの試験に備えて一緒に勉強をしていた。と言うより、毎回赤点でそろそろ後が無くなってきた刹也が俺に教えてくれと頼みに来たのだ。それなのに、さっきから気が散ってばかりの刹也は妙な事を言い出した。

「なぁなぁ一護。読心術を使える奴がいたとしたらさ……」
「はぁ? いきなり何言ってんだ?」
「だから、もしそんな奴が居たら……俺が今、読心術使える奴っているのかなって考えてる事も読んでる、って考えてる事も読んでるのかなぁ?」

 人間暇になると何とも非生産的な事を考え始めるらしい。アホらしいと思ってこの時の俺は刹也の言うことを聞き流した。



 その翌日から刹也が突然音信不通になった。絶対に落とせないはずの試験だったのに何考えてんだアイツは。元々不真面目だった刹也が休んだことで憤った俺だったが、無断欠席が3日も続くと流石に心配になってくる。高校生には珍しい一人暮らしをしている刹也は、もしかしたら事故とか病気で身動きが取れない状態なのではないだろうか。

 俺は早速その日の放課後に刹也の家に様子を見に行くことにした。




 部屋の前まで来ると中から妙な音が聞こえた。人の歌のような、それでいて機械音の様な音だ。しかし、インターホンを押しても中から刹也が出てくることはなかった。不審に思った俺は鍵がかかっていると思いながらもドアに手をかけてみる。すると予想に反してドアは開いた。

 慎重にドアを開けてみると、そこには刹也が居た。

 どうやら歌っていたのは刹也自身のようだが、相当声が嗄れてしまっている。それに様子がおかしい。虚ろな目をしており、かなりやつれているようだ。



「オイ刹也! 一体何があったんだよ!?」
「い、一、護……?」


 初めは何も話そうとしない刹也だったが、尋常ではないその様子から放っておくことはできず、俺は根気よく刹也に問いかけ続けた。そして、かなりの時間をかけて、何とか話を聞くことができた。

 刹也の話によるとこうだ。先日俺の家から帰った後、寝ようとしていた時に電話が掛かってきたそうだ。番号も非通知で、誰かと思いながらも出てみると相手は知らない女の声だった。しかも、電話を取って話し掛けても全く返答がなかったらしい。当然ただの悪戯だと思い電話を切ろうとした。ところがその瞬間、か細い声が聞こえてきたため再び耳を澄ませて聞いたそうだ。


『きょ………と………ない…』
「もしもし?よく聞こえないんですけど。」
『………おも…………よ……』
「あのー、イタズラなら切りますよ?」

 そう言って今度こそ電話を切ろうとした瞬間、はっきり聞こえたらしい。


『お前が今日思った事、誰にも言うんじゃないよ』


 一瞬何の事だか分らなかった刹也だが、すぐに俺の部屋で考えていたことが頭に浮かんだらしい。自分の考えが全て読まれていることに対する恐怖で狂いそうになりながら、刹也は何も考えないようにするためにずっと歌い続けていたらしい。


 俺は体質上霊とかそう言った類の怪奇現象には恐怖感を抱かないが、初めて見えない相手に恐怖を覚えた。読まれている、今こうして考えている事も読まれてるんだ……。ダメだ、考えるな、考えなきゃ良いんだ。何も考えなければ……


――プルルル……


 俺の携帯が鳴っている。



相変わらず怖さ控え目。


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