岳人は一人で下校している途中だった。外はいつもと違いまだ明るい。今日は部活が休みだったからだ。 先程まで一緒に歩いていた友と別れ、一人で家路へと足を向けていると見慣れた人影が見えた。 「あれ、刹也じゃん」 その人物はクラスメイトの刹也という少年だ。彼は世間一般で言う「変わった奴」で、クラスの一部の人間に虐められていた。そして、岳人はそのイジメを行っているグループの一人なのである。 「あいつ今日も変な事してんな」 刹也は道路の真ん中のマンホールの上でジャンプしていた。他に何をするでもなく、ただ飛び跳ねているのだ。 そして、笑っていた。一見無表情にも見えるが、口角のみ少しだけ持ち上げた何とも言いがたい表情で笑い声を上げている。 「ハ、ハ、ハ……」 岳人は不審に思いながらも刹也に近付いて行き、馬鹿にするように話し掛けた。 「おい刹也! お前こんな所で何おかしな事やってんだよ!」 「ハ、ハ、ハ……」 しかし、刹也は岳人の存在など気づいていないかのように、全く反応する素振りも見せずジャンプを続けた。 「クソクソ刹也っ! 無視してんじゃねーよ!!」 岳人は苛立ちながら怒鳴るが、尚も笑いながら飛び跳ね続ける刹也。そのことが更に岳人を怒らせた。 しかし、それと同時に、普段からテニス中によく跳躍していた事も助けてか、マンホールの上でジャンプするのはそんなに楽しいのかという好奇心が湧いてきた。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、少なくともその時の岳人は何故だかそう感じたのである。 「なぁ……そんな事してて楽しいのか……?」 相変わらず刹也は笑い声以外発しない。岳人はとうとうキレてしまった。 「お前なんかより俺の方が高く跳べるぜ! どけよっ! 俺が跳んで見せてやるよ!!」 そう言って岳人は刹也を突き飛ばし、マンホールの上に立った。そして、いつもの様に軽く膝を曲げ、力強く地を蹴る。 だが、岳人が足を離したその瞬間、刹也は人間とは思えない速さでマンホールの蓋を外し、岳人の足下から引き抜いた。空中での刹那の間、岳人はただ「落ちる」という事しか考えられなかった。 余りに突然の事に悲鳴を上げることすらできず、すっとマンホールに落ちていく。それを見届けた刹也は、何事も無かったかのようにマンホールの蓋を戻し、再び飛び跳ね出した。岳人が来る前と同じように。 唯一変わったのは、その笑い声だけだった。 「ク、ク、ク……」 ジャンプと言えば最初にこの子が思いついたので。 |