ホラー・狂愛夢

□道連れ
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 あの日私は彼氏の赤也とデートをしていました。友達の美奈とその彼氏の丸井先輩も一緒の、所謂ダブルデートというものです。楽しい時間はすぐに過ぎ、そろそろ帰路につこうかとしていた時のことでした。

「赤也、どっちが先に家に着くか競争しようぜぃ!」
「良いっすよ! 負けませんからね!」

 私達はそれぞれ同棲しており、同じアパートに住んでいました。そこでバイクで来ていた赤也と自動車で来ていた丸井先輩が、どちらが先に家へ辿り着くか競争することになったのです。

 その時2人を止めていればあんな事にはならなかったのに……

 まだ二輪車の免許を取って間もなかった赤也は、二人乗りするのは怖いからと言って私を丸井先輩の車に乗せてもらうよう頼みました。私は赤也に気を付けてねと伝え、丸井先輩の車の後部座席に乗せてもらったんです。丸井先輩の運転する車は、赤也の走る道とは違う道を走りながらアパートへと向かい、数十分後アパート前に到着しました。

「切原は……いねぇな! よっしゃ! 俺の勝ちぃ! やっぱ俺って天才的?」

 先に着いた私達は談笑しながら赤也の帰りを待ちましたが、いつまで経っても彼は帰ってきませんでした。流石に不安になった私は、祈るような気持ちで彼を待っていました。その内丸井先輩は外に探しに出てくれて、私は赤也が戻ってきた時のために家で待機していました。

「丸井先輩から連絡来ないね……赤也も帰って来ないし……」
「大丈夫だよ菜月……」

 美奈に慰められても私の不安はちっとも消えませんでした。それどころか時間が経つにつれ段々不安が増してきます。それでも、身体の疲れには勝てず、私はいつの間にか寝てしまい、気付けば朝になっていました。
 起きた時にも、赤也の姿はありませんでした。

「菜月! 大変なの!!」

 目が覚めるとほぼ同時に美奈が私の部屋のドアを叩く音が聞こえました。不安で明け方まで眠れなかったため寝不足の私はフラフラしながら扉を開けました。

「菜月、落ち着いて聞いてね……昨日、切原君が……」

 言いにくそうにする美奈に変わって丸井先輩が話し始めました。

「昨日の帰り、事故に会って……亡くなったって……」

 予感はしていました。けれど、実際にそれを聞いてしまったら目の前が真っ白になり声も出せません。

「あのね、実はもう一つ言わなきゃいけないことがあるの……」

 放心状態の私は、友人達の言葉を黙って聞くしかありませんでした。

「今朝その事を知ってすぐに、俺達の家のドアを叩く音が聞こえたんだ。それで誰だって聞いたら……赤也だ、って」
「え……?」
「確かに切原君の声だったの……。開けてくれって言ってて、ドアを叩いて、でも私達は怖くて開けられなくて……」
「あいつは即死だったらしくて、自分が死んだことに気付いて無いのかも……。だから菜月の所にもきっと来る……」

 2人には絶対扉を開けるな、一人で死んだ彼は誰かを引きずり込もうとしているんだ、と言っていました。

 そしてその日の夜。


ドンドン!
ドンドンドン!


「俺! 赤也だ! 開けてくれよ!」


 突然の音と声に身が竦む。どうしよう、本当に来てしまった。赤也が来てしまった。間違いなく彼の声だった。私が聞き間違えるはずはない。私は、私は大好きな彼に殺されてしまうのだろうか……?


ドンドンドンドン!


「なぁ菜月! 開けてくれって!」


 いつまでもドアを叩く音はやみません。私は恐怖に震えながらも、大好きな赤也の必死な声を聞いてドアを開けたくなりました。開けないといけない気がしたのです。


「早く開けろ!! なぁ! 頼むって菜月!!」

 私は気付けばドアのすぐ近くに立っていました。もう限界だったのです。赤也の声は私を殺そうとしていると言うより、懇願している様な、そんな切ない声に聞こえたから、答えない訳にはいかないと思ったんです。

「頼むから……菜月……!!」
「いい加減にして……! 赤也、貴方はもう……」

 私は駄目だと分かっているのにドアを開けてしまいました。

「もう……死んでるのよ!」

 開けてしまった。あぁ、私も死ぬのか……。でも、赤也の所に行けるなら、それも良いかな……


「それはお前らの方だ!!」


 赤也の姿が見えた瞬間、私は気絶しました。


 次に気が付いた時に見えたのは白い天井と白い壁。周りには、何も見えません。そして、目に入ったのは、涙を流しながら安心したよう笑う赤也の顔だけ。

「良かった……。菜月……無事で良かった……」

 私は混乱して訳が分かりませんでした。しかし、涙を拭った赤也が次に発した言葉のお陰で状況が把握できました。

「3人がなかなか帰らないのを心配してたら、病院から連絡あって……。丸井先輩達は……どうやら即死だったらしいけど、後ろに乗ってた菜月は幸い一命を取り留めたって聞いて……でも、全然目を覚まさねぇから、スゲェ心配したんだぜ……でもホント、良かった……」


 その時全てを悟りました。赤也が私を引きずり込もうとしたのではなく、即死だった美奈と丸井先輩が生死をさまよっている私を道連れにするため引きずり込もうとしていたのだと。あの時ドアを開けなかったら……。考えるだけでも恐ろしいです。

 それからは頻繁に二人のお墓参りに行くようにしています。今日も私は赤也と連れ立って墓地に行きました。

 墓地へ行くと誰かがお墓の前にしゃがみ込んでいました。

「菜月……」

 悲しそうな表情で私の名前を呼ぶその二人の背恰好には見覚えがあります。それは美奈と丸井先輩にそっくりでした。


 あれ、そう言えばこの墓石の名前って……




結局どちらが死んだのか。


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