ある一人の男が遠くから俺に何かを伝えようとしている。何度も何度も同じ内容を話しているようだ。 そんな夢を一週間続けて見た。夢の中の俺は、得体の知れない恐怖からその男に近寄れず、結局何を言っているのか聞くことはできなかった。 ちょうどその頃のことだ。友人の仁王が突然亡くなった。原因は分からない。決定的な死因が特定できないから、死亡診断書では急性心不全扱いされている。 俺は若くして死んでしまった友人の死に、ただ心を痛めることしかできない。葬式から帰った俺は、泣き疲れてそのまま寝てしまったらしい。するとその夜、また例の夢を見た。 だが、今日見えるのはあの男ではなく仁王だった。単に俺が仁王のことを考えていたから夢に出てきただけだろう。けれど、仁王が最後に俺に会いに来てくれたんではないかと感じ、こういうことも本当にあるんだなぁと嬉しく思った。 翌日、再びあの夢を見た。出てくる男はまた仁王だった。今度は話したいと思い、躊躇いなく仁王に近付いた。今まで見た夢に出てきた男と同じように、仁王は何かを伝えようと同じ内容を喋っている。 仁王、お前は俺に何を伝えたいんだ。最期の言葉、聞かせてくれよ。 俺は仁王のすぐ目の前まで辿り着いた。 「すきまじゃよ」 一言、そう聞き取れた。そして、そのまま消えてしまった。消える瞬間、仁王は気になる笑みを浮かべた。喩えるなら、ニヤリという感じの、少し嫌な笑みだ。 目が覚めた俺は、仁王の言った意味に気付いた。すきまとは、タンスや冷蔵庫などと壁の間の狭い空間。つまり隙間だ。その隙間がどうしたと言うのだろう。 「刹也、ずっと学校休んでるけど、どうしちゃったんだよ。仁王が亡くなったのがショックなのは分かるけどさ……」 仁王の葬儀以来ずっと休んでいた俺の家に丸井達がやって来た。 「学校なんて、もう行かない……」 行ける訳、ない。 「ダメなんだ……アイツらがココから出るなって言うから……」 「あいつら? 何を言っているんだ刹也?」 視線が……誰かの視線を、感じたんだ……ここは3階なのに。だから気のせいだと思った。それでもやっぱり視線を感じるんだ。だから家中探した。でも誰もいない。見つからない。 そしてある時突然気が付いた。 「なあ刹也……あのガムテープ、何なんだ?」 今、俺の家には隙間と呼べる物は一つもない。全てガムテープで塞いである。 「剥がしてみれば分かるよ……」 俺の言葉通りガムテープを剥がした丸井達は、二度と俺を助けに来てはくれなかった。 俺の部屋の隙間には、血に染まった黄色のワンピースを着た女や、両手のない赤靴の女の子、七五三の格好をした両目のない男の子、そして顔の爛れた首だけの女が住み着いている。 淡々と書いてみたけれど、なかなか怖くならないなぁ… |