「幸村ぁ、起きてるか?」 「刹也か、どうしたんだ?」 俺は足を骨折し、最近この病院に入院した。情けないことに階段から落ちてしまいこのザマだ。俺が入院した病院は、何とテニス部部長である幸村が入院しているのと同じ病院だった。入院していることは知っていたが、まさか同じ病院だとは知らなかったので、ある意味有名人のテニス部員達がぞろぞろと病院の廊下を歩いているのを見た時は驚いたものだ。 そういう訳で何の因果か仲良くなった幸村の病室には毎日遊びに来ていた。内科の幸村と整形外科の俺は病棟が違うが、ギプスをつけてリハビリも始まっている俺が幸村のいる階まで来るのはそう難しいことではなかった。入院生活があまりにも暇すぎて、ここ数日は夜中までお邪魔していた。看護師さんに見つかったら、絶対に怒られるだろう。 「消灯時間が早すぎて眠れねぇよー。もしかして寝てた? だったら帰るけど」 「大丈夫だよ、俺も眠れなかった所だし。看護師の巡視もさっき来たところだから、暫く大丈夫だよ。入って」 「サンキュー!」 幸村の個室に入れてもらった俺は、幸村と離しながら楽しい時間を過ごしていた。退屈な入院生活の中で、幸村と会話するのは一番の楽しみだったりする。とは言えただの怪我人である俺に対し、幸村は正真正銘病人だ。あまり長居するのも良くない。そろそろ戻るかと思い始めた頃、俺達は焦ることになる。 トントン 「ヤベっ、また巡視かな!?」 突然のノックに俺は隠れる場所もなくあたふたしていた。足を怪我しているため急には動けないのが辛い。しかし、ドアが開く気配が一向になかった。 「こんな夜中だし、ただの巡視ならわざわざノックはしないんじゃないかな? 少し俺が見てくるから刹也はここに居て」 そう言うと幸村が静かにドアを開けた。しかし、誰も居ないようだ。 「おかしいな……気のせいか?」 幸村がベッドに戻り、二人で気のせいだろうと納得しかけた頃、再びノックが聞こえた。 トントン 「幸村……もしかして……」 「……刹也の言いたいことは何となく分かるよ」 二人して顔を引きつらせた。沈黙が数秒続いた後で幸村が何かを思い付いたように声を発した。 「誰か居るんですか? 居るならノックして下さい」 トントン 「お、おい……これヤバイんじゃね……?」 幸村は更に質問を続けた。 「あなたは、この世の人ですか……YESなら1回、NOなら2回ノックして下さい」 オイオイ、何を言い出すんだと思いつつ耳を澄ませていると、返事が返ってきた。 トントン やめてくれ、そう思ったが、今更後には引けない。俺も恐る恐る質問してみることにした。 「あなたは男の人ですか、女の人ですか? 男なら1回、女なら2回ノックして下さい」 返事はなかった。いや、静寂が返事だったのかもしれない。幽霊に性別という概念はないのだろうかと思っていると、再び幸村が尋ねた。 「あなたは此処で亡くなった方ですか? YESなら1回、NOなら2回ノックして下さい」 トン 何て質問をするんだと思い幸村を睨みつけると、幸村も苦笑いをしている。いよいよ怖くなってきた俺達は黙ってしまった。しかし、好奇心に負けた俺は、何を思ったか最後にもう一つだけ質問をする事にした。 「あなたは1人ですか? それとも2人以上ですか? ……人数の数だけノックして下さい」 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン………… 怖い話に病院はつきものですね。 |