ホラー・狂愛夢

□夢と違う
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 部活を終えた刹也は、疲労困憊の身体に鞭を打ちながら夜道を歩いていた。ふと背後に気配を感じ振り返ると、黒っぽい服を着た男が彼の後ろを歩いている。距離があるためその男の顔は見えない。しばらく歩きつづけたが男の足音は消えず、まるで彼の後をつけているかのようだった。

「いや、ないない……。ひったくりにしろ強盗にしろ、狙われるのは大体女だしな……」

 まさかとは思ったものの少し怖くなった刹也は、歩みを速めて近くにあるコンビニへ駆け込んだ。彼はしばらくの間、雑誌を読む振りをして様子を窺がっていたが、コンビニの中に男は入って来ない。どうやらコンビニを通り過ぎて行ったようだ。
 自分の思い違いであったかとほっとしたと同時に自意識過剰な自分に少し恥ずかしくなった刹也は、簡単な買い物を済ませてコンビニを出た。ところが、コンビニを出て数歩進んだところで再び背後に気配を感じた。振り返ると先程の男が居た。

「な、何だ……お前だったのか。驚かせんなよ」

 その男をよく見ると、刹也はすぐに安堵した。挑発的な瞳に特徴的な髪。そこに居たのは同じクラスの切原だった。彼は刹也を見て笑っている。

 ただ、いつもの人懐こい笑みとは全く違う。赤目の時に見せるあの威圧的な笑みとも少し違うが、理由もなく恐怖を掻き立てられる眼差しだった。

「どうしたんだよ、何か言えよ……」

 切原は何も言わず、ただ刹也を見て微笑んでいる。その異様な雰囲気に居た堪れなくなった彼はとうとう歩きだした。

「お、俺もう行くから……。それじゃあまた明日な、切原」

 切原の横を通り過ぎて帰路につこうとしたその矢先、背中に強烈な激痛が走った。恐る恐る振り向くと、自分の背から滴り落ちる赤黒い血が見える。
背中に突き刺さる大きな包丁の柄には、自分を刺した人間の手が未だに絡み付いている。

「あ゛ああぁぁ……!!」

 痛い、死ぬ。最早それしか考えられなかった。それと同時に駆け巡る憎しみと悲しみの念。己を刺しておいてなお笑っている人間に対して言い知れぬ怒りが込み上げてくる。

「何で、だよ……! 切、は、ら……!!」

 彼の意識はだんだん遠のいていく。意識を手放すその時に刹也が見たのは、恍惚とした表情を浮かべる切原の顔だった。

「これで刹也は、一生俺のものだ……愛してるぜ、刹也……」








「はっ……! ゆ、夢……?」

 気が付けば全身が汗でベタベタだった。何となく背中に手を当ててみるが、傷もなければ僅かな痛みすらない。全ては夢だったのだ。

「何であんな夢……大体どうして切原が出てきたんだ?」

 嫌な夢を見たなと思ったが、所詮はただの夢。すぐに気を取り直し、学校へ向かう用意をした。そして学校に着く頃には夢の内容などほとんど忘れてしまい平和な一日を過ごした。


 ところがその日の夜、刹也は夢の内容を思い出さざるを得ない状況に陥った。部活の後に寄り道をした刹也が帰路についている途中、背後に気配を感じた。そっと後ろを振り返ってみると、黒っぽい服装の男が彼の後ろを歩いている。
 まるであの夢のようだ。よく見ればその人物は夢と同じく切原であった。夢の中では切原に話しかけることができたが、今は恐怖の方が勝ってしまいとても話し掛ける気にはなれなかった。

(あれは夢だろ。何を怯えているんだ俺は……)

 恐怖を感じながらも、全く罪のないクラスメイトを疑っていることに罪悪感を抱いた。少し落ち着こうと、夢で入ったのと同じコンビニに駆け込むと鞄から携帯を探り出す。そして、たまたまメールが来ていた部活の先輩である丸井に電話をかけた。

「先輩、ちょっと学校の側のコンビニまで来てくれませんか? 帰りによく寄るコンビニなんすけど……」
「はぁ? めんどくせぇからヤダー」
「そんなこと言わずにお願いします! 何か奢りますから!」

 何とか丸井に来てくれるように頼みこんだ刹也は、コンビニの中で雑誌を読む振りをしながら待ち続け、やがて彼が迎えに来ると二人で一緒にコンビニを出た。

 コンビニの周囲を見たが、いつの間にか切原はいなくなっていた。やはり自分の被害妄想だったらしい。


 コンビニを出た直後こそビクビクしていた刹也だが、暫くすると緊張も解けたのか丸井と笑い合いながら家の近くの分かれ道まで到着した。

「何があったか知んねぇけど、ここまで来れば平気だろぃ?」
「はい。ありがとうございました先輩!」

 これでもう大丈夫と安心した刹也は、丸井に何度も礼を言って自分の家の方へと向かった。

「なんか切原には悪いことしたな。いや、別にあいつに何かした訳じゃないけど……」

 しかし一人になってしまうと再び不安が押し寄せて来た。そして、消えたはずのあの気配を背後から感じる。嫌な感覚に、早く帰ろうと思いながらも後ろを確認せざるを得ない。

「え、何で……」

 そっと後ろを振り返ると、信じ難いことに、そこにはとっくに居なくなったはずの切原が立っていた。

「何……? 何か用かよ……?」

 いつの間にそんな近くに来ていたのか、彼は刹也からわずか数メートル後ろの場所に立ち、恐ろしい形相でこちらを睨んでいた。脳は逃げろと言う命令を発しているにも拘らず、恐怖で足が竦みその場に立ち尽くしている。

 動けない刹也にずかずかと近付いてきた切原は、刹也の耳元で低く呟いた。



「夢と違うことすんじゃねぇよ……」



またしても狂愛ネタ&夢ネタ。
うちで出てくる切原君って、高確率で病んでる。そして男主相手が多い。ヤンホモ…?


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