刻まれた証

□05.酔っぱらい注意報!
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「中尉も俺のことを強いと言ってくれるんですか」

 疑問と言うよりは確信に近い。自虐的に笑っていても声は普段とは違いどこか弱々しい。彼が手に持つ日本酒は、もう何杯目だったか分からない。

「強さって、何ですかね……」

 彼は強い。きっと誰よりも。だけど、強さと弱さは表裏一体なのかもしれない。彼は強くて、だけど同時に弱さも持っている。


酔っぱらい注意報!


 人は誰しも弱い部分を持っている。弱さを持った人間は、少しだけ強い人間に縋ればいい。例えばそれは家族であったり、友人であったり、恋人であったり。そうやって自分の足りない部分を補ってもらいながら生きていけばいい。

 でもそれなら、皆に強いと言われ、頼られ、縋られる、そんな彼自身が弱さを見せられる相手はいるのだろうか。

 私達部下に対しては、当然五十嵐中将は弱さを見せない。エドワード君達とは私達よりももっと深く信頼し合っているけれど、それでもやはり中将があの兄弟に自分の弱みを見せることはなかった。


 五十嵐中将は強い。

 五十嵐中将は天才だ。

 きっと怖いものなんてないに違いない。


 そんなことを言われ続け、弱さを見せることを無意識の内に封じ込められてしまっているのではないだろうか。きっと彼は強くあることを周りに強要されている。そして私もその一人に違いない。


 五十嵐中将はまだあんなに若いのに凄いよな。


 そう、まだあんなに若いのに……。よく考えなくたって、彼は私よりも年下で、本来ならば守られるべき年の頃から自分の身を自分で守って生きてきた。唯一の肉親も失い、一人で生きてきたその悲しみは、孤独は、一体どれほど大きいのだろう。


「ホークアイ中尉……すみません、俺少し飲みすぎたようですね。申し訳ないですが、今日はこれで失礼します」

 席を立とうとした中将の腕をとっさに掴んで無理やり引き留めた。普段の私なら絶対にそんなことをしないはずだから、五十嵐中将も驚いている。困惑した中将の顔はいつもより緊張感がなく、少しだけ幼く見えた。

「もっと飲んでください。私も飲みます」

 今だけは頼ってください。泣いてください。あなたの弱さを見せてほしい。たとえそれがアルコールの力を借りないと見せられないようなものだとしても。

「私も随分酔ってしまいました。……明日になれば、今日話したことも忘れてしまいそうです」

 ハッとしたように紅い瞳が僅かに大きくなり、私の視線と絡み合う。そして、すぐにまいったという表情になり、私から目を逸らされる。

 いつもはあれ程頼もしく見える表情が、私のせいで曇っていると思うと少しばかり罪悪感を覚えてしまう。だけど、その泣きそうにも見える表情すら堪らなく愛おしい。きっとこの人のこんな表情は滅多に見ることなんてできない。

「私はきっと、明日になったらまた中将に頼ってしまうと思います。だから今だけは、もっと私に頼って下さい……」
「……本当に、リザさんには敵いませんね」

 私と一緒に、もう少しだけ、酔っ払ってみませんか?


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