携帯電話ネタSS 夜の貴重な自由時間、手持無沙汰になった俺はプライベート用の携帯を開いてみた。見れば新着メールが数十件。ざっと眺めると仕事用の携帯でないにも関わらず相手は大方軍人だった。正直に言えば話した記憶すら曖昧な人物の名前も何通か見受けられる。 「絶対に送るとは言っていたが…律儀だな…」 アドレスを聞かれたら簡単に教えてしまうのは自分でも悪い癖だと思っている。だがわざわざ理由を付けて断るよりはずっと楽なので、この先もこの癖が治る事はないのだろう。もう一つくらい本当の意味でのプライベート用携帯を買わなければいけないかもしれない。 日本に行く数日前から事ある毎に青服に取り囲まれ、寂しいだの連れていってくれだの、果ては己の姿を見られなければ生きていけないなどと大げさなことを口々に言われた。 これらの文句が本気かどうかは別として、慕われていることに関しては悪い気はしない。たとえ社交辞令だったとしても大勢の軍人から目を掛けられ支持されているのは上下関係の厳しい軍では有利に違いないだろう。 しかし、実際問題としてこの数のメールをどう処理して良いものか困り果てている。 「返信、した方が良いよな…」 せめて一言だけでも返しておこうと一度閉じた携帯を再び手にした。溜息を吐きながらベッドに仰向けになって返信画面を立ち上げ、社交辞令的なありきたりの内容を打ち込む。 暫くして文章に詰まり手を止めていると、突然画面が切り替わり着信音が鳴り響いた。 「通話…か」 メール画面から強制的に切り替わったのは着信を知らせる画面だった。それもメールではなく通話の。点滅する名前を見て顔が綻ぶ。 そうだ、俺はこんな無機質な文章が見たかったのではない。直接声を聞きたかったんだ。文字だけでは伝わらない、この暖かさを。心の平安を求めて。 「もしもし…」 何が書きたかったのか自分でも分からない。とりあえず軍で人気な夢主を書けたからいいか…。電話の相手は誰でも良いです。 |