恋なんて愛なんて。編
□トランプはまだ来ない
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勘違いなのか、そうでないのか。無自覚なのか、そうでないのか。
本人が否定してでもそれをまた否定されて。
どっちが正直者のエースで、どっちが嘘つきジョーカーかなんて、
じゃあ誰なら知ってると言うの?
【トランプはまだ来ない】
合宿二日目。
本日は朝からみっちりと練習が行われる…のだけど。
朝食の後、四校揃って小学校の体育館へ向かう筈の予定は、
一人の男によって崩された。
「志緒ー行くぞーっ!!!」
「「「…は?」」」
朝からテンション高くガッツ食いをしてると思えば、皿を綺麗に片付け頬に米粒をつけたまま、花道は立上がり志緒に向かってそう叫んだ。
周りで談笑しながら箸を進めていた面々が、呆気に取られた視線を花道に投げ掛けるのも無理はない。
しかしながら、大声で名前を呼ばれた本人はと言えば、
「ハイハイ」
呆れの混じった、でも楽しそうな声で答えて、既に食べ尽くしていた食器を重ねて立ち上がった。
え?何が?行くって何処に?
と、その場の全員が首を傾げるが、志緒にしたら、花道が「行くぞ」と言えば「あーそう、行くのね。ハイハイ」と言ったところ。
「ゴリ、鍵は?」
「は?鍵って、体育館のか?」
「それ以外に何があんの?」
「あー、鍵なら昨日は海南が最後だったから牧が…って待て、なんで鍵がいる?」
「赤木…もう行っちゃったぞ…?;」
木暮に言われて視線を巡らせれば、既に牧から鍵を受け取っている志緒の姿。
気付けば花道の姿もない。
「お、おいっ!まさか勝手に先に行く気じゃ…」
「そー。」
「待たんかバカもん!団体行動を乱すなっ!!」
「別にバラバラで行っても行くのは同じトコなんだからいーじゃん。」
「良くないから言っとるんだ!だいたい何で先に行く必要がある!?;」
「だって花道が行くぞって言ってるし。なんか張り切ってるみたいだから、
やらせてあげたいでしょ?」
その言い分と、花道絡みの時限定の笑顔に、誰も反論出来る者は居なかった。
呆然とする面々を余所に花道の声がする玄関の方へと脇目も振らず一直線に向かう志緒は、まるで花の蜜に吸い寄せられる蜂の様だったと彼等は語る。
「まったく…。あの子は桜木花道の為なら何でもやるんじゃないかって、時々心配になるわ。」
彩子のその呆れ声に、嫉妬と羨望の溜め息が行き交った。
「花道」
「ぬ?なんだ?」
「なんかあったの?楽しそーじゃん」
「ふっふっふー!天才はなー、ボールとお友達なのだ!」
「ドリブルの練習すんの?」
「昨日ホケツくんに平面動きの手解きを受けてやってな!」
「健司に?」
「ホケツくんにだ!そんでなー、ボールと仲良くなったらボールがちゃんと言う事聞くんだってよ!すげーだろ!ジュージュンだ!!」
「ふーん?健司らしーね。」
従順の漢字も意味も判ってないだろう花道は、藤真論に上手い事乗せられてるらしい。
まぁそれでドリブルの練習も今迄以上に頑張るだろう事があからさまに判ったので、志緒は馬鹿、と愛しそうに笑った。