恋なんて愛なんて。編
□好きだからしました。文句は受け付けません
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横も側も。近ければ近い程いいのはだって、なんだか心地良いから。
バスケと睡眠の邪魔さえしなければ、他の時間全部、くれてやってもいいと思うのはだって、嫌いじゃないものが均等になるから。
嫌いじゃないものばかりで埋め尽くされてくれるから。
だけど、だからこそ。
横にも側にもアンタが居ない時に。バスケの最中にアンタが頭に浮かんだ事に。
気付いた苛立ちはつまり。
【好きだからしました。文句は受け付けません】
その日の午後、突然なのかそうでないのか。
流川に変化が起こった。
シュート練習をすれば、いつも通り綺麗なレイアップを決め…着地に失敗してコケる。
ミニゲームをすれば、豪快なダンクで…オウンゴールを入れる。
流川のバスケへの情熱は、見ていれば誰だって気付ける程のもので。
だからこそ、こんな流川は有り得ないと誰もが思った。
流川自身もそう思っているのか、不可思議な失敗をする度に舌打ちが漏れ。
苛立ちだけが募っている様で…不機嫌なオーラを目一杯に放つ彼に、誰も軽々しく声をかけられない。
だから彼に何があったのかなんて、誰にも判らない。
「もうっ!一体なんだって言うのよっ!!」
ご機嫌取りなんてものはしないものの、みんながみんな、流川の機嫌を伺って。
舌打ちが聞こえる度に、八つ当たりでもされるんじゃないかとビクビク怯えるこの状況に、流石の彩子嬢も動かざるをえなくなった。
「流川!ちょっとこっちいらっしゃい!」
「…」
勇気あるその行動に、三井や他の大多数はおぉ…と羨望の眼差しを。
宮城や仙道、越野に牧なんかは、大丈夫なのかと彩子の身を案じ。
花道と清田は、流川なんてほっとけばいーのにと悪態付き。
…どうでもいい、と気にしてないのは、藤真を筆頭に少数。
たくさんの視線を浴びながら、流川は言われた通りに彩子嬢の方へと足を向けた。
我が道を行く彼の、数少ない歯向かえない人物なので致し方ない。
「…」
「一体なにがあったって言うのよ。アンタらしくないじゃない。」
「…」
何も答えずただイライラと手の中でボールを遊ばせる流川に、はぁ…とわざとらしく溜め息を吐いて。
確信にも近い事を、あえて疑問系で彩子は聞いた。
「志緒と何かあったの?」
「…」
ピクリと眉を動かして、彩子に視線を移す流川。
返事はなくともそれは肯定。
やっぱりねと彩子は肩をすくめた。
本人に自覚があるかは判らないが、失敗して舌打ちする度に、視線を志緒へと移していたのだ。
睨んでいる様な、顔色を伺う様な、不思議な表情で。
「話してみなさいよ」
どうせアンタ一人じゃ解決出来ないんだから…と暗に含ませての言葉に、流川は彩子を見て、視線を床へと落とす。
それは、話す事を迷っているんじゃなくて、どう話せばいいのかと考えての事。
この後輩が口下手な事は百も承知な彩子は、何も言わずにただ流川が話し出すのを待ってやった。