Kowloon.SS

□無防備な恰好に
1ページ/2ページ





全部無自覚なのが、こいつの1番恐ろしい所なんだ。


こんなの、俺以外の誰にも見せられるかよ…。







無防備な恰好に









葉佩九龍。


俺のクラス…いや、この呪われた天香学園に"男"としてやってきた転校生。
だが、本当の姿は"女"で《宝探し屋》を名乗る、《墓守》達の敵。



…そして、俺の心を掻き乱して、掴んで離さない奴。











「寝付けないから」
と、ぼやいた九龍が俺の部屋に入って来たのが30分前。
温めたミルクを飲ませ、寝る前の一服を終えた俺が部屋に返そうと腰を上げたの
もつかの間。
…そのまま、俺の蒲団の中に潜り込んで来たのがほんの10分前の話。




…そして、今に至る。




九龍の小さな寝息を隣で聞きながら、俺はお預けをくらった犬のような状況に陥
っていた。




どうしようもなく好きな奴が、自分の隣で寝てる…なんて言えば、喰いたくなる
…つーか、性的な感情を持つのは男としてはら当然の事であって。


普段はそういう感情を極度に抑えている俺だが、今回だけは勝手が違う。

何しろ1番問題なのは、こいつが寝ている恰好だからだ。


いつ着替えたのかは知らないが、何故か、俺がいつも着ている部屋着を羽織って
やがる。

学生服のままならまだ良い。
そのくらいの我慢を聞かせる自信はあるからな…。



だか、俺の置かれた状況は何と言うか…目のやり場に困るというか、据え膳目の
前にして、手が出せない。



普段男の恰好をしているとはいえ、あくまでもこいつは女。

俺との体格差もそれなり…つか、かなりある訳だ。


そんな奴が俺の服なんか着てみろ!
詰め襟やワイシャツで隠れている鎖骨やら首筋やらがまる見えなんだよ!




「ちっ…、馬鹿野郎…喰っちまうぞ…?」



アロマをくわえ、ゆっくりとその香りを味わう。

いくら周りに淡泊だの無気力だの言われても、あくまで俺は血気盛りな男子学生
だ。

セックスやら何やらにだって、それなりに興味はあるし、嫌いな訳じゃねぇ。




"ったく…もっと落ち着けつーんだよ"




灰皿の上に置いたばかりのアロマを咥え直し、もう一度火を付ける。

ラベンダー特有の甘い香り。
こうでもしていないと、雄としての本能が目覚めてしまいそうだったから。





「…っん、こう…」



その香りに反応したのか、大人しく眠っていたはずの九龍が寝言のようなものを発し始めた。



「…おい、どうした?」



アロマは咥えたままで、その艶やかな黒髪に触れる。
少しくすぐったさそうにするが、もっとと強請る様に自分から緩く頭を擦り付けて来た。



「…こう…、だいすき…」



幸せそうな笑顔とうわ言のような、でも舌っ足らずな呟きを残して、奴はまた眠りの淵に堕ちていった。



「…。マジなんなんだよ、こいつは…。」







俺の教訓。


…こいつの無自覚よりも、恐ろしいものはない。










fin.









"悪戯する場所で5のお題"より「無防備な恰好に」→配布元無差別アウトロー

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ