鋼 の 錬 金 術 師

□恋心
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恋心 後編


「ちーっす!報告書持ってきたぜ」
いつものように、部屋の奥に陣取る机の主に声をかける。
「ついでに中尉から「そろそろ休憩になさってください」、だとよ」
ほれ、と机の空いているところにカップを置く。
「ああ、もうそんな時間か。ひさしぶりだね、鋼の」
「ああ、ひさしぶり」
「まったく、もう少し頻繁に報告に来れないのかね?前回来たのは何ヶ月前だ」
あきれたようなため息を吐きつつ、カップと一緒に置かれた報告書を手に取る。
「えーっと、・・・2ヶ月、か?」
「正確には2ヶ月と7日だ」
ぺらり、ぺらりと、約2ヶ月分の報告書を読んでいる。
その姿を、エドワードは見惚れた様に見つめていた。
ロイはそれに気づいているのかいないのか、平然と報告書を読んでいる。
― ・・・決めたんだから、早い方がいいよな。うん!―
俯いて拳をぐっと握り締めると意を決したように顔を上げた。

と、顔を上げた先には顔がくっつくのではないかという位に近づいたロイがいた。

「うわぁぁっ!!」
あまりの事に悲鳴を上げてしまった。
顔を真っ赤にして目をぱちくりさせているエドワードの姿を、ロイはあきれた顔で見つめていた。
「・・・何度声をかけても返事が無いから、どうかしたのかと思ったぞ」
「えっ?!」
その言葉に、ロイが渡した報告書を読み終わった事に気づいた。
「あ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」
エドワードはすまなさそうに苦笑した。
ロイはため息を1つつくと、ぽんっとエドワードの頭に手を乗せた。
「あまり無理をするんじゃないぞ。倒れたら元も子もないのだからな」
本の読み過ぎで寝不足だとでも思われたのだろうか、頭に乗せた手でぽんっぽんっと叩いた。
「がーーっ!やめろよ!!」
「どうしてだね?」
「これ以上、慎重が縮んだらどうしてくれる」
「・・・・・・・・・縮まないと思うのだがね」
「いーっや、縮む」
エドワードは上目遣いににらんだ。
頬を赤く染めて、むーっと膨れる姿は、年相応に見えて好ましい。
まだ15歳の子供なのだ。
こういう時々出る仕草にロイは目が離せなくなっていた。
ほほえましく眺めているとエドワードは怪訝な目でロイを見た。
「・・・・なに見てんだよ」
「いや、可愛いと思ってね」
その言葉に、エドワードは一瞬何を言ったのか解らなかったようだったが、次の瞬間には顔を真っ赤に染めていた。
ロイは、その反応は無いだろう・・・と思った。
いつもならば、「男が可愛いって言われて喜ぶとでも思ってやがるのかぁ〜〜〜〜!!!」と憤怒するはずなのに、今日はそれが無かった。
「・・・鋼の、本当になんでもないのか?」
「なんでだよ」
「先ほどもぼんやりしていたではないか。具合でも悪いのかね?」
「・・・・違う」
エドワードはうつむいて唇をかみ締めた。
そして何かを振り払うかのように顔を上げた。

「大佐、言いたいことがあるんだ」
「?なにかね?」
「俺、大佐が好きだ」
「は?」
「だ〜か〜ら〜、大佐のことが好き、わっ!」
全部言い終わる前に目の前の男に抱きしめられた。
いきなりの事にエドワードはぱにくっていた。
「・・・・・それは、本当かね?」
「!!!!嘘ついてどーすんだよ!!」
腕の中から見上げてくる金の瞳は、からかいの色は無く、真剣だと言うのがすぐにわかる。
「・・・そうか」
こころなしか嬉しそうな返事が返ってきた。
「・・・・・軽蔑されるかと思った」
「なぜ?」
「だって、男同士だぜ?普通は嫌がらねぇか?」
「私としては愛しい者には性別など関係ないと思っているが?」
その言葉にエドワードはきょとんと見上げる。
「そなのか?」
「ああ、確かに女性に好意を持つことの方が多いが、同姓に好意を寄せる事もあるのではないかとは思うよ」
「・・・・・じゃあ、大佐は?」
「ん?」
「俺のこと好き?」
不安そうに瞳を震わせながら、エドワードは返事を待つ。
ロイはふっと微笑んだ。
「私も好きだよ。エドワード」
その瞬間、エドワードは花が咲いたかのように微笑んだ。



― 終わり ―


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