聖 剣 L O M

□始まりの夢
2ページ/4ページ




本で読んだ事がある。


遠い昔、珠魅たちは薬では自分たちの傷は治らない事を知っていたので、何とか自力で直そうとしていた。

しかしどんな方法を使っても一度ついた傷は治る事はなかった。

長い年月を使って癒さなければ治らなかった。

そんな時、一人の珠魅が一粒の涙を流した。

その涙は光り輝く石になった。

そして、偶然それが横になっていた負傷した仲間の傷に触れた。

すると、見る見るうちに傷が癒えていった。

珠魅たちは自分の涙で仲間の傷が癒せる事を知った。

自分の傷は無理だけど仲間の傷は直せる。

なぜ自分自身の傷は癒せないんだろう?と疑問に思う珠魅も少なくなかった。

それは自分の命を削り分け与えるから。

結果的にそう証明されたのは後の事。

それまでは魔力か何かだと思っていたのだ。

一人の珠魅が泣き過ぎて儚くなってしまった時、皆どうして自分自身が癒せないのかがわかった。

ならば2人1組になって傷を癒し癒されよう。そういったのはまだ若い都市長だった。

それならば一方的に命を削る事もあるまい。

そして、それは珠魅全体に広がった。

2人1組となり、癒し癒される関係。

珠魅が友愛の種族と言われる由縁だった。

しかしそれも昔の事。

歳を取らない珠魅は、核が砕けて儚くなるまでは永遠の時を生きることが出来る。

核さえ傷つかなければ。

どうして2人1組なのか。

友愛の種族と呼ばれるのか。

長い年月を経て、その意味も薄れてしまった。

パートナーを得るということはただのしきたりに。

癒し癒される。では無く、片方に癒しの役目を。

そうして、長い年月の内に珠魅は泣けなくなってしまった。

一番最初に泣けなくなったのは若くして玉石の姫になった娘だった。

姫長でもあった娘は自分の騎士に不安をぶちまけた。

今までは泣けたのになぜ泣けないの。

少しの傷でも涙石さえあればすぐに癒せる。

そう思っていたから森へ狩りに行ったのに。

珠魅狩りの一味に襲われて何とか逃げてきたのだ。

娘の騎士は核に無数の傷がついていた。

涙石が使えればこんなものはすぐに治る。

しかし、娘は泣くことが出来なかった。どんなに泣きたいと思っても。

娘の騎士が大丈夫だ、他の姫に頼んでもいいからと宥めても、娘は承諾もせず、涙を流そうと努力した。

だが。

努力もむなしく娘の騎士の核は砕け、儚くなってしまった。

それでも娘の瞳から涙は出なかった。




NEXT→

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ