聖 剣 L O M

□ひさしぶり
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上がっていった寝室のベッドには先ほど下に降りていった時と変わらない様子で眠ったままのアレクが居た。

「・・・・・・アレク、起きてよ・・・・」

フレイアは切なげにアレクを見つめた。

「助けてすぐの時は起きたくせに・・・」

あの時した事は何だったか、思い出してみる。・・・・・・徐々にフレイアの顔が真っ赤になっていった。


― そ、そういえば・・・・あの時は必死だったから判んなかったけど私・・・・アレクにキスしちゃうとこだったんだよね ―


顔をりんごの様に真っ赤にしたフレイアは人工呼吸しようとしたときの事を思い出す。

「・・・・・・・・・一か八かやってみる価値はあるかな?」

顔を赤くさせたままアレクの眠っているベッドへと近づいた。

思い出したのは昔読んだ御伽噺。眠り続けているお姫様に王子様が口付けると目を覚ます・・・・という。

この場合王子様とお姫様の役どころが反対な感じだが。

「起きたら、謝るからね?」

そう呟くと室内に静寂が訪れた。












夢を見ていた。

とても長くて暗闇というような闇の道。

自分の道を指し示しているような感じがして、つい笑い声が出る。

そういえば先ほど懐かしい顔を見た気がする。

煌めきの都市でのあの出来事から久しく見ていなかった彼女の、心配げな顔。

吐息がかかる位近くで見たあの顔の後、見る見るうちに真っ赤になっていった。

・・・・その後の記憶が無い。

でも、久々に見れた彼女の表情がとてもまぶしく見えた。


あの出来事のあった日。

彼女が種族を超えた涙石を流した日。

私は宝石王にこの、自らの核を渡したはずだった。

肉体から核が離れればこの身は無くなってしまったはずなのに、次に目を覚ました時、目の前にあったのは泣きそうな蛍姫と彼女の顔だった。

『アレクッ・・・・!』

『よ・・・かっ・・・たぁ・・・・』

飛びついてきたフレイアに同じように近づいてきた蛍姫。一部の者はそれをあまりよくは思っていなかったのだろう、

半分睨んできているようだった。

代々の玉石の騎士であるレディパールと族長として支えてきたディアナ、騎士長を務めていたルーベンスまでもが

何も言わずに見守っているので、何かしようにも出来なかった。と言うのが正しいか。

他の珠魅たちより遅くに目が覚めた私はずいぶんと心配されていたらしい。

・・・・・私は裏切り者なのに。

なぜ自分が、確かに核を渡して身がなくなったはずなのにこうして生きているのか?と蛍姫に尋ねてみた。

それは、驚愕の事実だった。

『アレクの核を飲み込んだ宝石王との戦いの後、フレイアさんは私達のために涙を流されたのです・・・・』

珠魅ではない種族のものが珠魅を想って泣くとその身が石になる。その伝説の通りにフレイアは石になった・・・
その頬に涙石を残して。

種族を超えた涙石。ソレは1000の飲み込まれた珠魅達以外の、そのほかの理由で核になった者達をも蘇らせたと言う。

その奇跡を、蛍姫達は目の当たりにした。そして、そこまでして珠魅を救ってくれたフレイアの為にその場にいた珠魅たちが
涙を流したと言うのだ。

信じられなかった。長い間に涙を流せなくなってしまった自分達の為に、種族など関係ないとその瞳から涙を流し石になったフレイア。

その結果は珠魅に涙を戻してくれた。友愛の種族へと戻してくれた。たった一人の人間が。

長い間変わらなかった事柄を、いとも簡単に。

他の者より核を取り出すときの損傷が激しかったのか、アレクは他の珠魅たちより数時間目覚めるのが遅かった。

その出来事を目の当たりにしてはいないが、ここにディアナとルーベンスがいるのが証拠だ。

この二人の核は自分が奪ったのだから。

そう、彼女の見ている目の前で。一番残酷な方法で。

そんな事をした自分をいま、目の前でその彼女が果物を剥いている。

『目、覚まさないかと思ったんだよ・・・・』

いくらかトーンダウンした声色に、アレクはフレイアのほうへと顔を向けた。

『ここにいるのは色々と辛いかもしれない。でも出て行くのなら・・・せめてもう少し具合が良くなってからにして』

今すぐにでも出て行こうとしていた考えを見抜いたのだろう彼女の言葉に、アレクは頷く事しか出来なかった。





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