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□反抗期?
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バイトの時間がいつもより遅くなってしまったフリオニールは、渡されているカギを開けると下宿の玄関の扉を開けた。

もうさすがに皆眠っているだろう時間だったので、静かに中に入ったフリオニールの目の前に立っていたのは、仁王立ちしたライトだった。

『・・・お帰りフリオニール』

『た、ただいま』

仁王立ちしたまま無表情で見つめてくるライトに、フリオニールは少し吃驚した。

『今日は遅かったようだな』

『ああ、いつもより忙しくて・・・定時に上がれなかったんだ』

壁掛け時計の針は夜中の12時を過ぎていた。

苦笑いを浮かべながら言うフリオニールに、ライトは溜息をついた。

『あまりに遅かったから君のバイト先に電話したんだが・・・・帰った後だったのでな』

『え・・・・』

『2時間ほど前に』

『あ・・・・・・』

バイト先から下宿までは20分くらいの距離だった。自転車を使えばもっと早く帰ってこれる。

フリオニールはぎくりと身体を軋ませた。実はバイトを1つ増やしていて今日はそっちのバイトの方が忙しかったという事。

そして、新しいバイトの連絡先をライトに教えていなかった事を思い出したのだ。

『・・・・・バイトしている関係で多少遅くなっても咎めていなかったが・・・・』

閉じていた瞳を開けて、ライトはフリオニールを見据えた。

『こんな事が続くようならば、君にも門限を定めないとならないな』

『えっ・・・・・』

フリオニールは俯いていた顔をバッと上げた。

『たしか・・・バイトが終わるのは9時だったか・・・・、ならば門限は10時ということだな』

そう言うときびすを返すライトに、フリオニールは唖然と見送っていた。






「・・・確かに遅くなったのに連絡もしなかったのは悪かったと思ってるんだ。でも、ちゃんと理由があって・・・・」

昨晩の回想が脳内から終わると、フリオニールはライトの服の裾を握る力を強くした。

「・・・・理由?」

「ああ・・・」

フリオニールは書類とは別に持っていた紙の包みを差し出す。

「これを見つけて・・・・貴方が探してたのを知っていたから・・・・」

渡されたライトが中身を見てみると、それは探していた一冊の書物だった。

「その時は手持ちがなくて・・・バイト代が入ってからプレゼントしようと思ったんだけど、それまで残ってるか心配で・・・・。

 それで、取り置きしてもらうついでにその店で短期間のバイトしてたんだ」

ライトはその言葉を聞きながら、手の中にある専門書をじっと眺めている。

「そのバイトも昨日で終わりで・・・。その事を内緒にしていた俺も悪いから、門限を定められても文句は無いんだ。

 でも、どうして遅くなったかの理由もちゃんと聞いてくれなかったから・・・」

「私は君が街で遊んでいると思っていたのだが、それは間違いだったのだな・・・・」

ライトは本から視線をフリオニールに移す。

「ありがとう、フリオニール」

「っ・・・・・・」

うっすらと微笑むライトに、フリオニールはその普段見せられない笑みに顔を真っ赤に染めた。

「い、いいんだそのくらい! 貴方にはいつも世話になっているから・・・・・」

「フリオニール・・・・」

ライトは真っ赤な顔で俯いたフリオニールを抱きしめる。

「ラ、ライト!?」

突然の事にフリオニールは慌てた様に声を出した。そんな事はお構い無しにライトはフリオニールの顎をついっと上向かせると、
顔を近づけてくる。

顔を赤く染めたまま硬直してしまったフリオニールに、あと1センチ・・・というところで携帯の着メロが静まり返った室内に響き渡った。


チャッチャッチャーッ チャッチャッチャチャーチャーッ チャッチャッチャチャッチャッ! ウーッ♪


どこか黄色い鳥を思い浮かばせるようなその着メロに、甘い雰囲気をかもし出そうとしていた二人の時間が止まった。

「あ・・・う、バ、バッツからだ!」

いまだ鳴り響く着メロにフリオニールは慌てた様にライトから離れると、携帯を取り出し通話ボタンを押した。

『あ、フリオニール? 今日さ、合コンで遅くなるかもしれないから悪いけどボコのことよろしくな!』

じゃっ! と、バッツはそれだけ言うと通話を切ったようだ。ツーッツーッと通話中の音に切り替わっている。

ちなみにボコというのは、バッツの愛車で黄色い塗装の何処か黄色い鳥を思い浮かばせるようなカスタムをされたバイクだ。

下宿人の中で彼のバイクを運転できるのはフリオニールだけだった。フリオニール本人は免許は持っていてもバイクは持っていない。

おおかた、直接合コンへと向かうのだろう。たしか、今日はバイクで来ていたはずだから。

「えっと・・・・、そういうことなんで、先に失礼しますね?」

携帯からこぼれてきた大き目の声に、確実に聞こえていただろうライトの方に引き攣りながらも微笑むと、
フリオニールは顔を真っ赤に染めたまま資料室から出て行った。残されたのは腕を中に上げたまま呆然としているライトだけ。

そのまま静かに腕を下ろすと額に手をやりながらクックック・・・・といつもしないようなとっても黒い笑みを浮かべた。


・・・・とりあえず、バッツ、帰ってきたらどうなるか分かっているのだろうな?


とか心の中で呟いたライトだった。






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