紅い胡蝶
□第二章
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天気は《気持ち》を表している。
昔そんなことを聞いたきがする。
それが本当のことかは知らないが、少なくとも今の気持ちを表しているらしい。
頼んだわけでもないのに……
紅い胡蝶 第二章
「ハイ、団子に緑茶。」
「すまぬのう…。…って、佐助ぇ!!砂糖が入っておらぬではないか!」
「ぇ、旦那、未だに緑茶に砂糖入れてたの!?」
「当たり前でござる!!」
「緑茶に砂糖入れるなんて旦那だけだから!!もぉ〜、自分でいれてよね!!」
「………冷たいのぅ…。」
「それくらい自分でやってよ。俺様戦忍であって旦那の女中じゃないの!ホント、わかってる〜?」
雨は降ってはいないが今にも泣き出しそうな、不安定な灰色のそら。
胸の中に何とも言いにくいわだかまりを色で表現した、そんな天気。
信濃の上田城の縁側にて。
戦と戦の間という短い間ながらも平和な時間をのんびりと過す。
数少ない時間だが、それが幸村にはもどかしいらしい。
さっきから妙にそわそわして落ち着きがない。
理由は明白。先日、伊達政宗との一戦。
あの後、がら空きになった武田を今川義元が攻めてきたのだ。
その結果、武田は上杉との戦いもそこそこに川中島から引き上げたのだった。
もちろん幸村も政宗との戦いの最中、引き上げさせられた。
そのことで多分幸村の中で《何か》が引っ掛かっているのだろう。
攻めてきた今川軍を散々けちらして今川義元の首を討ち取ったが、あの時の幸村はイライラしていたし、目の前に大好物の団子があるにも関わらず未だに手をつけていないし、緑茶に入れる砂糖の量も尋常じゃない。
そもそも茶に砂糖を入れるところから間違っているが、そこはあえて突っ込まないでおこう。
「……旦那?」
「……………………。」
見るに見かねて声をかけてみたものの、反応なし。
今はそっとしておくのが一番いい、そう思うと佐助は音もなくその場を立ち去る。