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□赤頭巾ちゃん
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赤頭巾ちゃん ~私と狼さんとおばあちゃんと~



赤ずきん雪菜ちゃんの長い一日は桑原ママンの次の一言から始まりました。

「蔵馬おばあちゃんの家にパンとワインを届けて下さい。何かあったらすぐに俺が雪菜さn…――「わかりました、行ってきまーす。」

桑原ママンは赤ずきんちゃんのことが大好きでした。が、赤ずきんちゃんは知らないふりをしました。

こうして赤ずきんちゃんはおばあちゃんの家に行くことになったのでした。
赤ずきんちゃんのおばあちゃんの家はそれほど遠くはありませんでしたが、途中狼の住む森を通らなくてはなりません。
赤ずきんちゃんのママンはごつくてガタイはいいのですが、酷く小心者でした。
それに比べ赤ずきんちゃんは肝の据わった賢い子でした。
そうです、赤ずきんちゃんはどちらかと言うと蔵馬おばあちゃんに性格が似ていました。
赤ずきんちゃんのおばあちゃんは年齢不詳でとても頭がよく、ママンよりずっと物分りがいい人でした。
赤ずきんちゃんは良く思います。この人は底が知れないと。
そして賢い赤ずきんちゃんはおばあちゃんが嘘つきであることも知っていました。
しかしおばあちゃんは頭の回転が人一倍速いので何が真実で何が嘘なのか、大半の人はわからないのでした。

色々考えながら赤ずきんちゃんはドンドン森の奥に歩いていきました。

そんな赤ずきんちゃんを木の陰からジッと見ている奴がいました。
それは狼の飛影たんでした。
小さくて力が無いにも関わらず怖い狼を頑張って演じている飛影たんは皆のアイドルでした。しかも飛影たんは極度の天然でした。



(よし、俺の強さを森の奴らに知らしめるためにも、まず手始めにあの小娘を食ってやるぞ。)


飛影たんは単純にそう考えました。
そしてさらに飛影たんはこうも考えました。

(あの小娘を食ったら、今度は絶対にあのババアを食ってやるぞ。)


もちろん飛影たんの言う〈あのババア〉とは蔵馬おばあちゃんのことです。
実は狼の飛影たんは何度も蔵馬おばあちゃんを襲ってみたものの、いつも返り打ち合っていたのでした。
そして、酷いときには逆に食べられてしまうことさえありました。その度に飛影たんは涙を一粒零していたのでした。

飛影たんは日々襲っては襲われてというのを繰り返していたのでした。
しかし最近では蔵馬から求められることが多く、いつも命からがら逃げていたのでした。
人間から逃げる狼と言うのも滑稽な話ですが。
こうして飛影たんの無駄に高いプライドはズタズタに傷つき、森の皆はいつになったら蔵馬が飛影を食べるのかが楽しみになっていました。


(森の奴らを見返してやるんだ!!)


飛影たんはいつもこのことを思っていました。



「…おい、そこの赤い奴!」

飛影たんは意を決して話しかけました。


(コイツは普通の人間だ。コイツは普通の人間だ…!)

と念じるように思いながら。


「こんにちは、狼さん。」

にっこりと笑った少女は心なしかあの蔵馬おばあちゃんに似ていました。
無理もありません。この子は蔵馬おばあちゃんの孫にあたるのですから。
しかし、そのことを知らない飛影たんにはとても不思議に感じられました。

(コイツは普通の人間だ。コイツは普通の人間だ…!)

そう何度も唱え、平常心を保とうと飛影たんは必死になりました。

「お前、そんなものを持ってどこかに行くのか?」

「ええ、蔵馬おばあちゃんのところに。」

「く、く、蔵馬!!?」


その名前を聞いただけで逃げたい衝動に駆られましたが、飛影たんの狼としてのプライドがそれを許しません。なんとか踏みとどまりましたが、冷や汗はとまりませんでした。
しかしそんな飛影たんに一つの考えが浮かびました。

(俺がコイツになりすまして、あの『ババア』が油断したところを襲い、そのまま今度は『ババア』になりすまして、ついでにコイツも食ってやろう。)

飛影たんはこれはいい考えだと思い、さらに普段あまり使わない頭をもっと使って考えました。

(そうするとコイツと一緒にいるのはまずいな…。よし、コイツには遠回りをしてもらおう。)

そう考えると飛影たんは普段使わない顔の筋肉をいっぱい使って、最高の笑みを赤ずきんちゃんに見せてこう言いました。


「そういえば、あっちに花畑があるんだ。そこの花を摘んで婆さんに届けてやったらどうだ?」

しかしこれから蔵馬おばあちゃんとサシで戦うことへの緊張から、冷や汗まで止めることはやっぱり無理でした。
いくら飛影たんが平静を装うとも赤ずきん雪菜ちゃんは賢い子でしたし、何より蔵馬おばあちゃんに似て洞察力も優れている子でしたからおばあちゃんの名前を出したときに飛影たんが青くなったのを見逃しませんでした。
でも蔵馬おばあちゃんと飛影たんの関係まではわかりません。
そこで雪菜ちゃんはもう少し様子をみることにしました。

「まあ、それはいいわ。でも、私は場所がわかりません。親切な狼さん、連れて行って下さい。」

そして今度は雪菜ちゃんがにっこり微笑んだのでした。




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