オリジナル小説

□お人形さん
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ジワリと湿った地下室。
湿気と何かが腐ったような臭いがソコに充満している。
ソコは窓も無ければ通気孔もない。
ソコはコンクリートの壁と鉄の扉で外界と切り離された一室。


ソコには光はない。
電灯も電球も日光も月光も。

ソコにあるのは闇と病み。
ソコに生きるはただ一人の少女と少女が「お人形さん」と呼ぶ物体のみ。



『お人形さん お人形さん

貴方はずっと一緒ですよ

お人形さん お人形さん

私は貴方を裏切りませんよ



だから

お人形さん お人形さん

私を一人にしないでね』



少女はハミングするようにそれは口ずさむ。
しかし少女は知らない。

その『お人形さん』がナニモノなのか。
しかし少女には関係ない。
『お人形さん』がなんであろうと少女は一人ではないのだから。


『お人形さん お人形さん

今日はどこかへお出掛けになりますか?

それとも私と一緒にいますか。

私と一緒にいたいですか。

ならずっと一緒にいましょう。

ね、お人形さん』


彼女は『お人形さん』から何にも返事が無くても良いと思っていた。
彼女と『お人形さん』には絶対的な何かがあると思っていた。
少女はそれをなんと言うかは知らなかった。
それでも彼女は信じて疑わなかった。



『お人形さん お人形さん

貴方が傍にいるだけで

私は幸せなの

お人形さん お人形さん

他に何もいらないよ


私はいい子?』



少女は起きているときは勿論、寝ているときも『お人形さん』を手放さなかった。

ある日少女への食料の配給は完全に無くなった。

それでも彼女は口ずさむ。



『お人形さん お人形さん

貴方が傍にいるだけで

私は幸せなの

お人形さん お人形さん

他に何もいらないよ


私、いい子でしょう』



そして少女の神経の衰弱は限界を超えた。
少女は立つことが出来なくなっていた。
少女は座り続けることさえ出来なくなっていた。
勿論少女は『お人形さん』を抱くことさえ出来なくなっていた。


ある日少女は『お人形さん』を落としてしまった。


乾いた絹のパサリと言う音。

堅いものと堅いものがぶつかったカタンと言う音。

そして何かが崩れたパリンと言う音。


『お人形さん お人形さん

貴方はどこですか。

お人形さん お人形さん

私も一緒に行きたいな

お人形さんと一緒に行きたいな

お人形さん お人形さん

一人きりは嫌だよ

お人形さん お人形さん

置いていかないで――』



そして『お人形さん』は消えてしまった。
コンクリートの床と同調するように消えてしまった。

そして少女もその内逝くだろう。



『お人形さん』に裏切られたと思いながら。





the end...







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