宝物庫
□かすがの糸
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壱
ある日の事でございます。
御釈迦様こと、謙信様は極楽の薔薇池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
池の中に咲いてる薔薇の花は、みんな玉のように真っ白で、そのまん中にある金色のずいからは、何とも言えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れております。
極楽は丁度朝なのでしょう。
やがて謙信様はその池のふちにお佇みになって、水の面わおおっている薔薇の葉から、ふと下の様子を御覧になりました。
この極楽の薔薇池の下は、丁度地獄の底に当たっておりますから、水晶のような水を透きとおして、三途の川や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
するとその地獄の底に、長曾我部元親という男が一人、ほかの罪人と一緒にうごめいてる姿が、御眼に止まりました。
この元親という男は、近所に住む元就という男にとばっちりを受けて、一緒に地獄に流されたという哀れな男でございます。
謙信様は地獄の様子を御覧になりながら、この元親は変なとばっちりの為に地獄へ流された事を思い出しになりました。
そうしてそれだけ哀れな男をどうにかして、地獄から救い出してやろうと御考えになりました。
しかし、謙信様が直々行く訳にはいきません。
そこで謙信様は周りを見回すと、極楽にある御堂の影から凄まじい視線を察しになられました。
「謙信様…、あっ…あぁん///
はぁはぁ…」
なにやら嫌な文句を鼻息を荒くしながら呟く天女がいました。
この天女はかすがといい、姿こそ麗しく、色気もあるが、この様に謙信様を尾行(=ストーキング)するという迷惑極まりない行為を毎度毎度しております。
謙信様が独りでぶらぶら御歩きになっていたのも、かすががちょっぴり怖いと思い、逃げていた途中でした。
話が少しそれましたが、謙信様はかすがの力を借りようと思い付きになりました。
「かすが…」
「っは!!
あぁぁん///
謙信様が私を呼んでいらっしゃる…。
私、もう地獄へ逝っても良いかもしれない…+」
かすがが柱の影ではぁはぁするのを御覧になってしまった謙信様は、ストーカ天女に呼び掛けた事を激しく後悔されました。
また、その天女の様子見てしまった事を後悔なされました。
謙信様は、本当に地獄へ墜ちたらいいのにと思いになられましたが、御釈迦様なのでそれがお出来になられません。
謙信様は自分の立場を始めていやになりました。
そう考えていた謙信様でしたが、視界のすみにもじもじと顔を赤らめながら、こちらに熱い視線を送り続けるかすががほんの少し鬱陶しく感じたので、謙信様はかすがに一つ頼み事をなさいました。
「かすが、あなたのいと(忍具用)をかしていただけますか?」
すると、かすがは『勿論です』と瞳を潤ませて言うと謙信様に糸を渡しました。
謙信様はその糸をそっと(天女に触れないように)御手に御取りになって、玉のような白薔薇の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下ろしになさいました。
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