紅い胡蝶

□第一章
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立ち上がって襖を開ければ、すぐ傍に才蔵が控えていた。
才蔵もまた、幸村の事実を知る数少ない家臣の一人である。


「おはようでござる、才蔵!!」

「おはようございます、幸村様。」

「そちのお陰で助かった(ぼそっ)」

才蔵の耳元に口を近付けてわざわざ礼を言うあたり幸村は素直なのだと思う。
にこっと無邪気に笑った顔が人なつっこく、愛らしい。

才蔵も才蔵で平常心を保っているつもりらしいが、無表情のまま耳が赤くなっている。
幸村には決して気付かれないだろうが、佐助の目は節穴ではない。佐助の顔に《不満》の文字が書かれているのに気付く。

「幸村様、あまりのんびりしていると朝の稽古の時間がなくなってしまいます。」

「そうであった。では、某はこれにて。」


パタパタと足音をさせながら廊下を走る幸村を目でおう。

普通にしていればただの「じゃじゃ馬娘」としか言われなかったろうに…。



「それで本題は?」

「ああ、ついに上杉が動きを見せた。」

「軍神さまもついにか。こりゃ、お館さまに知らせないとね。」

「それと、他にも北の輩が…」


「北…?」


**********************


それから暫くした後、佐助は幸村を置いて一人甲斐の信玄の元へ来ていた。


「上杉軍およそ五千、川中島に進軍を開始。更に奥州の伊達政宗もおよそ三千の
兵を引き連れ川中島に向かっている模様。目的は分かりませんが、上杉軍と我が
軍を同時に叩くつもりかと。」

「多分そうであろう。そうか…これは面白くなってきたのぅ!!」

「は、はぁ…」



面白いってアンタ…と言う突っ込みも程々に「佐助ェ!!」と轟音が鳴る。

「城周辺に忍を入れてはならぬ。警戒を強化せよ。こちらも戦の準備に取り掛か
る!!」

「御意。」


音もなく佐助はその場から立ち去る。するとすぐに信玄は真田幸村を呼び出した



「なんでございましょう、お館さま!!」

「よく来た、幸村ァ!!…そちにこの戦で一役買って貰いたくてのぅ。」

幸村の前にはには不適な笑みを浮かべた信玄の姿が。

「これより我ら武田軍は上杉軍と合間みえる。それに伴い、邪魔をしようと考え
た輩が現れた。幸村よ、その者を足止めせよ!!」

「ぬぉぉお!!!戦の邪魔など武士の恥。真田幸村、必ずやその命を全う致します!!
して、その者の名は?」

「奥州の伊達政宗じゃ。よいか幸村、油断するでないぞ!!」

「承知致しましたァ!!お館さまァ!!」

「頼んだぞ、幸村ァ!!!」

「お館さまァ!!!!」

「幸村ァァ!!!!」

「ぅお館さまァァ!!!!」



…………ちなみに、幸村はこう見えて女の子なので殴り愛は行わない。

それは「嫁入り前のおなごの顔を殴るなど言語道断」と言う信玄なりの思い遣り
だとか。

明日、日も昇らぬ時刻に武田軍は甲斐を後にした。




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