オリジナル小説
□雪の降るこの街に(未完)
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U―@
痛いくらいの寒さに身が引き裂かれるような気がした。
そんな筈ないのに。家に帰っても誰もいない、そんなことわかっている。
パパが遠くの国に遠征に行かされてからもうどれくらいたっただろう。
まだパパがいた頃は寂しいなんて思わなかった。
たとえ、母親がいないといっても。
それは今に始まったことじゃないし、家に帰れば外でどんなに辛いことがあっても必ずパパが家で待っててくれる。
ずっとそう思ってた。
ラルクに罵声を浴びせて、暗い顔をさせたいわけじゃない。
ただ、この寂しい気持ちがうっとうしくて、自分だとどうすることもできなくてにあたってしまっただけ。
こういうのって、誰より自分が最低だよね。
明日になれば素直に謝れるかな。わからない。
だって、小さい頃からラルクの優しさに甘えてたから。
本当は、そういうことってよくないって自分が一番良くわかってるのに。
明後日になれば自立出来るのかな。
ラルクに甘えずに済むのかな。
ぐっと足に力を入れて滑らないように慎重に歩くこと10分弱。気付くと家に着いていた。
自分から帰ろうと思ったのに。
いざ、家に着いてしまうと帰りたくなくなる。
だって、帰ったって誰もいないから。
「ただいま」
誰もいない部屋に声だけが響く。
一人の少女が住むにはあまりにも広すぎる。
ついこの間まではお手伝いさんが出入りしていたが、自国の度重なる遠征と失敗。
いくら官僚として国のために働いていてもなかなか裕福な暮らしを継続するわけにはいかず、最低限の人数だけ残して解雇した。
皆、セシリアには良くしてくれるが、夕方になるとセシリアの夕食を作って帰ってしまうのだった。
最近は冷めた夕食ばかりだった。
ガランとした部屋。
大きい一人用の豪華なソファーが二つ、向かい合って置かれていた。
一つは愛娘のため、そしてもう一つは私のため、と言ってパパが買ったものだ。
でも、長い間使っていないせいか、それともお手伝いさんの殆どの人を解雇してしまったためか、うっすらと埃が赤いベルベットの上に乗っていた。
コートも脱がずに慣れた手つきで暖炉に火をつける。それでも寒いので暖炉の前にまで行き、手を火にかざした。
「もう薪がなくなってきている…」
昔なら、もっと前に誰かしら薪を調達してくれていたのに。
昔なら熱々のスープが飲めたのに。
昔ならみんなが「おかえりなさい」って言ってくれた。
昔なら家に帰ればパパが居た。
そう、昔なら…昔、みんなが居たあの時代、すべてが今と違って温かかったあの時代に帰りたい。
叶うはずのない願望は寂しさと虚しさだけを彼女に残して行った。
突然ガシャンと窓が割れる音がした。