月華綺單

□1.Rumeur
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細くしなる女の白い首筋に、赤い血が一筋つたっていく。
それを舌の先でなぞってからすくい上げると、寝ていた女の体が少し痙攣する。
傷口をこちらの唾液で湿らせば、見る間にそこは塞がり、ただ吸われたような薄赤い痕が残るのみだ。
それを確認すると、作業を終えた黒髪の男は、身支度を整えた。
闇色の外套を羽織ると、部屋をでる前に、女が目を覚まさないようそっと、愛おしむようにキスをした。


街は夜に溶け込んで、しんと静まり返っている。
不思議と、男の足音すら、闇に飲まれて聞こえなかった。
ある程度歩いた所で、男が立ち止まる。
そうすると、男自身が暗闇に消えていくような錯覚を覚える。
しかしその錯覚は、男が声を放つ事によって、容易に解かれる。

「何か用ですか、クラウズ?」

言葉が街に響いた途端、バサリと布が落ちるような音を立てて、くすんだ金髪の、濃い茶の外套を羽織った男が現れた。

「なんだ、バレたか」

石畳に革靴の音を響かせながら、金髪のクラウズと呼ばれた男は、黒の男に近付いていく。

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