企画

□惚れて堕ちればそれで幸せ
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今朝のことである。
いつものように朝起きて朝食を作っていると、同居している泉がのろのろと起きてきた。
泉は朝が弱い、低血圧だから。
ふらふらと危ない足取りで台所に来、「……おはよう。」とだいぶ低い声で挨拶される。
「はい、おはよう。」
顔でも洗ってくれば?と、卵をぐちゃぐちゃにかき混ぜスクランブルエッグを作りながら俺。
「……ん。」と泉は頷いて、またふらふらと。
しかしその足取りがぴたりと止まり、「……あー。」と唸るように声を出した。
「そうか、今日か……。」
「ん?何が?」
「いや……あー、花井。」
ちょっと渡すもんある、と言って洗面所とは別の方向へ行く泉。
どうしたんだろう?と思いながらスクランブルエッグを皿に移していると、すぐに泉が戻ってくる。
そして「ん。」と何かをずいと差し出された。
「……チョコ?」
「おう、キスチョコ。」
そう、泉が持っていたのはキスチョコのお徳用パックだった。
いくつもの種類が袋の中に散らばっている。
くれんのか?と俺は受け取りながら尋ねた。
「んー、あげるっつーか、持ってけっつーか。」
「……どこに?」
「学校。」
今日絶対持ってけ、とふわぁと欠伸をしながら泉は言った。
「はぁ……。」と首を捻りながら俺はそれを見る。
「まあ持っていけって。絶対役に立つから。」
「役にって……何の?」
「まあ言うなれば」
少し目が覚めたのか、開いた目で泉はニヤリと笑った。



「犯罪予防対策ってとこかね。」



【惚れて堕ちればそれで幸せ】



「花井先生ー!Trick or Treat!」



……なるほど、そういうことか。
と、朝の出来事にようやく合点がいきながら、俺はその声のした方を見た。
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