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□愛の味覚とその原料
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腹が減ったと言えばおもむろに立ち上がり、台所に向かったと思うとものの5分で彼は戻ってきた。
手には焼きたての黄色い玉子焼きが乗った皿を持っている。
「……何で玉子焼き?」
「冷蔵庫にちょうど2個残ってたんや。それにフツーの玉子焼きとはちょっと違うで」
「?……どう違うんだ?」
まぁ食べてみ、と言われ多少不審に眉を寄せながらも口に運んだ。
正直、俺の家に出るものとさして差はない。
砂糖が少し多めに入っている甘い玉子焼きだ。
「……あんま変わんねぇ気がするけど……」
「そりゃ跡部家専属シェフが作る玉子焼きと比べたら月とスッポンやろな」
皮肉を含んだ言い方が鼻につく。
「ハンッ。どーせ俺は庶民の味なんて知らねーよ」
「切れんなって。お前、ジローとかの弁当つまんだことないか?」
そう言われ、いつかのR陣が集まって屋上で弁当を食べていたときを思い出す。
『跡部の弁当美味そうだCーッ!!ちょっと摘んでE?』
ジローが目を輝かせながら言い出して俺に許可をとると彼の弁当にはないおかずを持っていき、『うめーッ!』と言って笑みをこぼした。
その御礼にと貰ったおかずが玉子焼きだった気がする。
たしか俺のものとは違って周りは焦げ目がつき、砂糖の甘さよりも醤油の辛さが勝っていたが、それはそれで結構美味かった。
「あったなぁ、そんな事」
「で? 何が違うか分かった?」
正解を求めてずいっと近付く忍足に多少のウザさを感じながらも、記憶を頼りに呟いた。
「……焦げ目が無くて甘いとこ?」
「よくできました」
笑みを浮かべて俺の頬に口付けた。
からかっていると分かっていても、触れる感触が心地よくてつい許してしまう。
「んで、隠し味は何なんだ?」
「……知りたい?」
「…ちょ……ッぁ」
耳元で呟くものだからゾクゾクして思わずうわずった声が漏れる。
それに気をよくしたのか忍足は体を密着させてきて服の中をまさぐり始めた。
「ッおい!! 質問に答えろって!! 訊いてきたのはお前じゃねーかッ……」
「そんなに跡部が料理に関心があるとは意外やわぁ。答えはな……愛情や」
最後の言葉に一瞬思考が停止した。
……愛情?
…………何の?
………………誰の?
「跡部に対する愛や愛。LOVE」
英語に変換しなくても分かる。
いや、俺が言いたいのはそんな事じゃなくて……
「……それだけ?」
「それ以外に何があるっちゅーねん」
「……はぁ?」
くだらねぇ。
そう呟こうとした言葉を飲み下し、代わりに溜め息を零した。
もしかして忍足家秘伝の調味料とかあるのかもと思った俺が馬鹿だったよ。
「何や、溜め息なんて零さんといて。萎えるやろ」
「勝手に萎えろ。俺は誘った覚えはねぇ」
腰に回す手を無視して食事(と言っても玉子焼きしかないが)を再開する。が、それを忍足は許さず跡部の首筋に吸付いた。
「おい何してッ……ンッ…」
「そんなエロい声出して何処が誘ってへん言うねん」
腰を撫でた手が上へと移動する。
「せめてコレ食わせろよ!! せっかく作ったのに冷めるだろッ」
「レンジで温めればいいだけの話やろ。それよりこの欲情を何とかしてくれや」
「!……こンの…万年発情期ヤローが…ッ…ァ!!」
「何とでも言い」
彼の手は止まらない。
玉子焼きが冷めるのは覚悟しておこう。
もう後はどうにでもなれ、と彼が導くままに流された。
+。END。+
⇒おまけ