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□Nightless
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部活が終わると部員は談笑しながら帰路を急ぐ。
だが赤也だけは例外で、部員が着替えて部室を出て行くのを横目に1人で黙々とコートに散らばったボールを片付けていた。
(あーメンドクセ……)
レギュラーであっても2年生であることには変わりはなくて、1,2年の仕事である片付け当番が赤也にも周ってきたのだ。
部員が多いため月に一度しか周ってこないのがせめてもの救いだった。
それでも不運なことに、同じ当番の友達が家の用事とかで赤也1人に任されてしまったのだが。
(あいつ絶対デートだな……)
やっとのことで最後のボールをカゴに放り投げると、辺りは整備された綺麗なコートになった。
ボールを片付けて部室に向かう。
案の定、部室は電気が点いていても人の気配はない。
腹も空いたし早く帰ろうとドアを開けた。
「…真田…副部長……」
机の上に腕で顔をうずくめて静かに寝息をたてる彼がいた。
副部長が部室に残っている理由よりも、目の前の光景に驚きを隠せない。
(副部長が居眠り……)
あまりにも珍しいその行動に、着替えるのも忘れてしばらく魅入っていた。
規則正しい呼吸。
帽子がずれて僅かに露になる閉じられた瞳。
ベッドの上ではいつも俺が先に寝てしまうから、まともに見た無防備なその寝顔に少しばかり興奮した。
そっと触れるか触れないかくらいの指先で彼の髪に触る。
部室に隣接しているシャワールームを使ったのか、シャンプーの香りがふわりと宙に舞った。
「!!……ッ」
「うわっ!」
突然、弾かれたように真田が起き上がった。それに驚いて思わず後退る。
「いきなり起きないで下さいよ……あーマジビビった」
「赤也…か…。どうやら俺は寝ていたようだな……」
しまった、とバツが悪そうに呟いた。
「……もしかして待っててくれたんスか?」
「……あぁ。お前と同じ当番の2年が先に帰るのを見て片付けが遅くなるだろうと思ってな」
素直に嬉しかった。
今日は一緒に帰る約束をしていなかったのに。
普段気難しい真田副部長の時折見せるこの優しさは、恋である俺の特権なんだろう。
(でも待ってたなら手伝ってくれればいいのに)
思っても口には出さない。
『自分の事は自分でやれ』
彼がよく言う言葉のひとつだ。
自分に任された事なら責任を持てと、面倒くさがりで飽きやすい俺や丸井先輩によく言い聞かされていた。
「それにしても、副部長の寝顔、結構可愛かったっスよ」
からかうように言えば、彼は恥かしそうに咳払いをして帽子を深くかぶった。
「……もう置いて行くぞ」
「え、ちょ、早っ!! 待ってくださいよ副部長ぉ!! つか俺まだ着替えてないんスけどーッ!!」
ロッカーに掛かった制服を乱暴にカバンに詰め込み、それを掴んで遠ざかる大きな背中を追いかける。
(優しいけど、冗談が通じないのがたまにキズだっ)
心の中で悪態をつき、それをぶつけるように真田の背中に飛び込んだ。
副部長が焦るように怒鳴っても、それを無視して彼の頬にキスをする。
静かに夜を迎える空の下、消えかかる2人の影が重なった。
END
最初と内容の趣旨が変わってしまった……;;
しかもほのぼのにするつもりが甘々に\(^o^)/