キリリク文
□悪夢の後に
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氷の、音。
ヒンヤリした冷気、淡い光。
8年前の大事件。
時を止められ、眠る彼の───
───叫び声。
「───っ!!!」
スクアーロはそこで目を覚ました。
「…また……かぁ……」
額を流れる汗を拭い、荒い息を抑える為に深呼吸をする。
汗でジットリと濡れたベッドシーツと衣服が、自分がかなりうなされていた事を明確に示していた。
ザンザスが凍らされた、あの時の夢。
最近ではあまり見る事はなかったが、ごく稀に、こうして見る時がある。
それは、8年前のものとは思えない程鮮明で、スクアーロは見る度に呼吸困難やパニックを起こしていた。
酷い時には、喪った左手が幻肢痛の為にジクジクと痛む。
今回が正に、それであった。
「痛…」
義手と肉との接合部を掴み、痛みが落ち着くのを待つ。
しかしそれは治まる事なく、逆にどんどん酷くなっていく。
余りの激痛に荒い息はそのままに、流れた冷や汗が顎を伝ってシーツに吸い込まれた。
「…ザン、ザス……」
痛みと闘う最中、急に彼が恋しくなった。
あんな夢を見てしまった後なのも相まってか、不安と心細さが彼女の心中を交錯する。
寂しさが急激に増してきて、目の前が水分で滲んで見えた。
「やだ…」
独りで居るという、この部屋の空気が堪え切れない。
スクアーロは薄い寝間着姿であるのも忘れ、紅い暴君の元へ急いだ。