刀*語

□親友以上師弟未満
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※雰囲気とか若干ながら破廉恥注意!








だって俺達は親友で。
師弟なんて言ってもそんな事全然なくて。
寧ろ親友だから、子供がちゃんばらを色々思案してる様な感覚で。
好きだった。
少なくとも、俺の方は。
アイツがどう思っていたかは知らないけれど。
少なくとも、俺の気持ちは知っていて。
恋人でもないけれど、いつかこうなるんじゃないかって。
少なくとも、何となくだけど。
俺はそう思っていた。




















「―――…何だコレ、」


突然起こった出来事に四季崎は暫く目を白黒させた。
だが、直ぐに焦点を俺に定めると奴は呆れた様に半眼になってそう呟いた。
まぁ当然と言えば当然の反応だ。


「何で俺はお前に押し倒されてんだ?」
「…さぁな、俺にもよく分からん」
「ああ? 何だ、俺ぁてっきり虚刀流にも寝技の一つくらい押さえておきたいって言うかと思ったんだがな。お前の事だし」
「あー……多分、そんなんじゃねぇんだと…思う」


半端な表情で見つめれば、俺よりも更に怪訝そうな表情をした四季崎が見つめ返してくる。
お前何言ってんだ、とその綺麗な虹彩が大いに語る。
しかしそんな事を言われても俺自身よく分かってないんだから仕方がない。
寧ろ俺が教えて欲しかった。

経緯だってそうである。
いつもみたいに茣蓙に寝転がった四季崎と休憩がてら話していた時だ。
いつもみたいに、普段通りに。
その時に、ちょっと目線が下に落ちたのがきっかけだった。


「……まさかよ」
「…………」
「お前、欲情でもしたか? 野郎相手に」


自分でも信じらんねぇんだ。
四季崎の、少し肌蹴た胸元を見て思わず気持ちが高ぶっただなんて。
相手は親友で何より男なのにな。
四季崎の奴も口許は嘲笑で歪んではいたが目は少しも笑っちゃいなかった。

俺達は親友だった。
剣士と刀鍛冶、というもの以前に朋友だった。
一応師弟、なんて言ってたがそんな事全然なくて。
寧ろ子供がちゃんばらの技を色々思案してる様な感覚だった。

親友だった。
剣技の師範だった。
そして、俺は、四季崎の事が好きだった。

少なくとも、俺の方は。
そういう意味合いでアイツを見ていたんだろう。
アイツがどう思っていたかは流石に分かる訳がないが。
でも少なくとも、俺の気持ちは知っていた。
薄々感じ取っていたんじゃないかと思う。
知っていて尚敢えて普通に接していたんじゃないかとも思う。
アイツには女が居るし、俺もその内身を固めるだろうし。
まぁ四季崎が気を遣うなんて天地がひっくり返っても有り得ない事だが。
大体俺達は恋人同士なんかじゃない。
余計な着回しなんて必要ともしない様な親友同士だ。

親友だったんだ、ただの。
それなのに、俺は、いつの間にかそんな風に見れなくなってたんだ。
いつかはこうなるんじゃないかって。
少なくとも俺はそう思っていた。
そう感じていた。


「……四季崎…俺は…」
「ああ、知ってるよ」
「…………」
「まぁ、いつかはこうなるんだろうとは大体予測は付いてたからな。今更どうも思わねぇよ」


薄縁の上で仰向けに倒れている四季崎。
至って平然と言葉を紡ぐ様に少しだが怖じ気た。
たまにコイツは何でも知っているかの様な口振りを効く。
予知能力者だか何だか言ってたが、そんなものただの自称に過ぎないだろうと思っていたが。


「で、お前は訊かねぇのかよ。俺がお前をどう思ってんのか」
「は…?」
「こんな真似するって事はそういう意味なんじゃねぇの」


コイツの言ってる意味が分からずに聞き返すと、出し抜けに奴の両腕がこっちに伸ばされた。
何をするつもりかと思えば両方の頬っぺたをがっちり掴まれる。
ああやべぇ、抓られるなこりゃあ、と独り言ちてるとまたまた突然次の動作が起きた。
いきなり近付いてきた四季崎の顔にビビるよりも前に、俺の唇は奴のそれによって塞がれていた。


「―――俺もお前の事好きだから」
「…………」
「だから別にこんな事しようが何だろうが、特に何とも思わねぇんだぜ?」


唐突な口吸いの後、ゆっくりとした手付きで四季崎の腕が俺の首に回る。
普段通りの人を喰った様なその表情に、何だか変に拍子抜けした。
さらりとそんな事をされた挙句に悩んでた自分自身が馬鹿みたく思えてきたのだ。
思わず目の前で弧を描く口唇にもう一度唇を寄せる。


「…なぁ、一つ訊くがよ」
「……何だよ」
「やっぱ俺が下になる訳?」
「………上がいいのか?」
「別に。お前の好きにすりゃあいい」


などと。
情緒(と、この場合呼ぶのだろう)なんてこれっぽっちもない四季崎を組み敷き、俺は奴に手の平を伸ばす。
初めて触るその灰色の髪に指を通すと、四季崎は酷く満更じゃない表情を浮かべて目を細めた。
尋常じゃないまでの色香を放ちながら。

まぁそう思えるのは惚れた方の目の錯覚なんだろうが。
そんなどうでもいい事を考えながら、俺は、眼前の親友に没頭する事にした。






























親友以上師弟未満
(でも、恋人以上)
(媾曳以上、とも言ってもいい)







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